父の日異変

「あっ、忘れた。何も買ってねーや。」入浴中に外からT哉の声。
「別にいらん。」と応えておく。


風呂上りに金麦(注)を飲んでいたら、S司が「これ、プレゼント。」と紙袋。
中にはポロシャツとTシャツ。Tシャツは速乾性で「山用に。」との事。
へ〜、S司がねえ。普段からそういう事には全く無頓着だった子がねえ。一体どうしちゃったんだろう?と思う反面嬉しくて仕方がないのである。
「お母なら食いもんなら何でも良いけど、お父は何が良いか迷った。」そうだ。
お父こそ何でも良いのである。思ってもいなかった上に、あれこれ悩んだ上選んでくれたという事で余計にうれしい。
お父が小遣いで買った金麦をちょくちょく飲まれてしまうのも、この際不問に伏せておこう。いや、それどころか「金麦あるぞ。」と薦めてしまった。厳禁なオヤジである。


気配りのT哉が忘れて無頓着なS司がプレゼントをしてくれるって、なんだか様子が変わった。今後の何かを暗示しているような予感がチョッピリ。
T哉はいずれ結婚して家から離れ、S司が残り我々両親の面倒を見てくれるのかもしれない。まあ先の事など解かる訳はないが、なんとなくフッとそんな予感。
S司のやつ全く女っけ無しだし、色気づく気配も無い。全くのおくてである。これはこれで親としては心配の種なのだが…。
まあいいか。学問と結婚したとでも思ってやれば。






 (注)金麦:サントリーのビールもどき(発泡酒でもない第三のビール)。唯一値上げしていないので廉い上、*ーパードライなぞよりも余程ビールらしい味わいである。我家では今これが主流となっている。なりふり構わぬ値上げ保留によりサントリーはサッポロを抜き業界第三位に躍進したそうだ。おかげで業界からは非難ごうごうらしいが、我家のような貧困家庭には有難い存在である。それにつけてもビールの味が全くしない*サヒ*ーパードライなるものがまだ売れている事が不思議である。世の中の嗜好がビール本来の味と違った所へ移っている証拠かもしれないが・・・。