薬師丸ひろ子ちゃん

もう30年近く経つのでしょうか、メディアミックスという宣伝手法が流行った事があります。
一出版社だった角川書店が自社で出版している小説を映画化し、その映画の宣伝にテレビやラジオ、新聞などの多種のメディアを駆使していました。そしてそれらの相乗効果で業績を大きく伸ばしていました。
小説などにお金を出してまで読む習慣の無かった私にとって、角川書店は縁の薄い出版社でした。当時は変な拘りがあり、先ず岩波でそこになければ他の出版社のものを買う。というパターンでした。大体が堅苦しいものばかり選っていた所為か、これで充分用を足していたのですが、岩波は昔から書店買取制を採っており、資金的余裕の無い小さな本屋さんでは扱ってない所が多かったように思います。
そんな時代のなれあいの業界に大穴を開けたのがこの角川書店でした。いきなりラジオやテレビで大々的な宣伝、結局世事に疎い私は劇場へ出かける事はありませんでしたが、当時流行った歌の出だしはまだ覚えています。
「Mother Do you remember…」【人間の証明】でしたっけ。
角川書店のこの手法、営業とは全く縁の無い私でも本当に驚かされたものです。
【世の中、良いものなら売れる。】としか思っていなかったのが、【金と労力をかければどんなものでもそれなりに売れる。良いものなら尚更売れる。】という事を教えられたのです。
翻って景気低迷と暗い世相の現在、消極的なマインドを払拭する為にも積極的な手法が必要なのではないでしょうか。購買力が無いわけではない。むしろ当時より日本国民の金融資産は比較にならないくらい増えているのです。先行き不安というマインドが消費を抑えているだけなのです。
夢を与えてくれる物やサービスには、それに相応する対価を皆さん喜んで支払っています。


角川映画の第二弾は【野性の証明】だったのかな? テレビでの宣伝で目鼻立ちのはっきりとした少女が映し出されました。まだ幼さを残した面持ちの中に凛とした表情が印象的でした。
「この子は将来美人になる。」と確信したものです。それが薬師丸ひろ子さんでした。
結局この映画も見ていませんが、あれから20数年、40代になられた彼女は、私の確信とは裏腹に庶民的な優しいお母さんに変身されました。いえ、決して不美人という訳ではありませんが、凛とした一見冷たさを感じさせる美人とはほど遠く、いつも笑顔を絶やすことの無い優しいお母さんのイメージなのです。
その後【セーラー服と機関銃】など続けてヒット、スターへの階段を駆け上がって行くわけですが、傲慢さなどとは全く縁がなく、お見かけする度にその暖かさに触れ心が休まる想いです。
丁度彼女のアイドル時代の事です。
誰かが山の会の集会所へ週刊誌を持ってきました。そのグラビアにセーラー服姿の彼女が掲載されていました。化粧っけなど全く無いあどけない表情。そして私に問いかけました。
「誰かにそっくりじゃない?」
「Y子か。」
それはまるで瓜二つと思えるほどのものでした。
それほど似てはいなくても、ある一瞬そっくりに見える場合があります。まさにその一瞬を切り出したものがそこにあったのです。
以来うちの会ではY子の事を【O村の薬師丸ひろ子】と呼ぶようになりました。
手前味噌ですが、そのY子が今のかみさんです。
かたや大女優、かたや田舎のおばさん。でも気取らない庶民的な大女優は、今でも我家の田舎のおばさんと同じ表情を時折見せてくれます。