行ってきただけ(北岳)

山高きが故に貴からず、とはいうもののやはり高い山は魅力的です。
樹あるを以て貴しと為す。などと続けば中部山岳の高山なぞ貴い山の仲間には入れて貰えそうにありません。
高い所が大好きなバカと煙の仲間であるtanuoさんは、標高で順位付けをする事はありませんが、やはり高い山に魅力を感じます。
日本第二位の標高を誇る北岳もやはり魅力的です。ただしたったの2回しか行った事がありません。名古屋に拠点を置く者としては必然的に北ア、中アに集中してしまうのが当然の成り行きでしょう。
その北岳も実質的には第三位である奥穂に抜かれてしまったようです。人為的に石を積上げたそうですが、そんなくだらない事に労力を費やす事に異を唱える人が居なかったというのも奇異な話です。「取って(撮って)良いのは写真だけ。残して良いのは足跡だけ。」ヨセミテに行ったとき現地の人から教えられた言葉ですが、人類の遺産として大切にしようとする国立公園への考え方を如実に表しており、その姿勢に欠ける我が国とつい比べてしまいます。
日本の国立公園内には平気でゴミを捨ててゆく人がいます。糞尿の持ち帰りまで飛躍するのもどうかと思いますが、それより先に誰でもができる生分解出来ないゴミを出さないって事が何故徹底できないのでしょうか? 
身近な鈴鹿でも希少植物の盗掘や食用可能な植物の新芽を取るため枝ごとへし折って行く人も見られます。
所詮日本は三流民族の三流国家ってところでしょうか。
話を元にもどして北岳について。
最近はどこもかもマイカー規制が敷かれ、南アルプスも例に違わずバスかタクシー利用となるようです。バスは解りますがタクシーと一般車両とどう違うのでしょう。(あ、いかん。また脱線しそう。)
アクセスを調べてみると、夜叉神からは一般車輌通行止め、奈良田以北も通行止めでバスかタクシーの利用となるようです。
戸台から北沢峠越えで広河原へのバスについては「2008年度の営業は終了しました。」の表示のみで今年はいつから営業するのか記されていません。
昔しか知らない私には「不便になったものだ。」としか感じられません。
最初に行った時は中央道も伊北インターまでしか通じておらず、そこからは一般国道で韮崎へ、山道に入り芦安温泉を横目でにらみながら、夜叉神トンネルを越え深夜の山道を広河原まで下る。ここの駐車場で仮眠をとり翌朝大樺沢から登り、下部岸壁帯を登り終えた後、緩斜帯で早めのビバーク、翌日早朝から登り始め昼前には終了、山頂を踏んで八本歯のコルから降りる。といったものでした。まだ午後の日の高い内に広河原を出発、高度を上げるに従い眼下の遥か下を流れる野呂川に、「一昨日はこんな怖い所を通ってきたのか。」と改めて緊張し、夜叉神を越えてからは芦安温泉で入浴、その日のうちに帰宅。前夜発2日の行程で充分消化できたのです。
2回目も似たような行程でしたが、たしか中央道が延長されており韮崎までは高速だったように思います。
北沢峠が通れるようになったのは、ちょうど山を止める頃だったと思います。ここから広河原まで一般車輌が入れればこんなに便利な事はありませんが、バスでもかなりの行程短縮になります。朝一番のバスに乗ればその日の内に緩斜帯まで行けるでしょう。
緩斜帯といっても1mにも満たないバンドがあちこちにある程度でそんなに広い所ではありません。寝ている間に落っこちないようビレイをとってツェルトを引っ被るのは毎度お馴染みのパターンです。夜明けと共にツェルトから顔を出すと目の前にドッカ〜ンと富士山。景色と言い高度感と言い本当に素晴らしいビバークサイトです。
富士山のてっぺんから見る北岳は本当に足元にあるかのように見えます。一跨ぎで飛び移れるような錯覚をよく覚えたものですが、北岳から見る富士山はまるで同じくらいの高さであるかのように感じられます。手を伸ばせば届くような感じもなくやはりかなり離れたところの浮島のような感じです。
北岳バットレスと言えば4尾根。比較的低いピッチグレードながら目の前に遮るものが無く、大樺沢まで一気に切れ落ちた景色は素晴らしい高度感です。これほどの景色は他にあまり例がなく昔から人気の高いルートでした。先輩のKさんの話では、後ろから付いてきたハイカーがつられてバットレスに来てしまい、仕方がないので一緒にザイルを繋いで登ってしまった事もあるそうです。少々山慣れた人なら素人でも登れるってところでしょうか。技術的には容易でもやはりあの高度感がルートグレードを引き上げている要因かと思います。
イカーで自由に広河原まで入れた頃と比べると若干の不便さはあるものの、やはり手軽に高度感のある登攀が楽しめるという点において、相変わらず人気の高いスポットだと思います。
上高地のマイカー規制だって昔は行楽シーズンだけでした。ゴールデンウィーク前に上高地に入り空地に駐車しておけば、帰りは休み中でもフリーパスでした。いや行楽シーズン中でも夜中は自由に出入りでき、夜の内にメンバー上高地で降ろし運転者だけが翌日沢渡からのバスで後を追う。って方法も取っていました。やはり上高地入りも昔の方が便利だったのですね。
しかしマイカー規制は世の流れ。たとえ車が全てEVに置き換わっても渋滞緩和の為にもこの流れが変わる事はないでしょう。
古き善き時代に自分達だけ良い思いをしてきて、少し後ろめたい気もします。とは言え今山で主流はやはり中高年軍団。カネとヒマとそして恐ろしいほどの闘志とパワーを秘めた方々ばかりです。少々のアプローチの不便さなぞものともしないあの力強さ。北海道だろうが海外だろうが何の障壁とも感じないあのパワフルさ。この積極性を以ってどんどん出かけて行ってもらいたいものです。