Traffic jam

昨日の「NHK金特」の槍で思い出しました。あそこって凄く渋滞するんですよね〜。
登り専用、降り専用と一方通行になっているにも拘らず。こうなると双方ともに追い越し車線が必要ですね。
私が最初に登った頃は渋滞など全く無かったように思います。それもルートは1本しかなく片側交互で登ったり降りたり。
暫くぶりにお盆に行った時は吃驚させられました。その時は北鎌からだったのですが、山頂が近付くにつれ喧騒と言って良いほどの話し声が聞こえてきました。今までが風邪の音しかしてなかったものですから大きな驚きです。いや聞こえ始めはやっと人のテリトリーに戻ってきたという安心感のようなものから若干の嬉しさのようなものを感じたのですが、近付くにつれ尋常ではない騒音に変わってきたのです。
祠の裏からひょっこりと飛び出すと山頂には溢れんばかりの人だかり。予期せぬ所から飛び出してきた私に奇異の目を向けると同時になにやらどよめきのような声が聞こえる。
交通整理に当たっている人が、「山頂の制限時間は10分です。」と言っている。そして私に向かって「北鎌から上がってきた人は無制限ですよ。」
いくら無制限と言われてもこんな雑踏の中、長居なんて出来るものではない。息を整えた後は景色を満喫する事もなくそそくさと引揚げました。この時、今のように上下線に分かれていたかどうかは覚えがありませんが、今までにない経験だけに未だに記憶に残っています。
肩まで降りて行くと誰かに声をかけられました。そこには昨日千天出合で会った青年が立っていました。殺生ベースであちこち回っていると言っていたのを思い出しました。彼は一足早く槍まで抜けていたのです。その後槍ヶ岳山荘のテラスで槍沢を見下ろしながらの山談議。かなり長い時間居たように思います。全く知らない人との出会い、これも山の持つ大きな愉しみのひとつです。
その後、お盆の槍は大渋滞が当たり前となり、この時期は避けるようになりました。


時は流れて、最後に行ったのはもう8年前になるでしょうか。
S司が高校2年の夏休み、急に槍へ行きたいと言い出し二人だけで出掛けました。お兄ちゃんは大学受験、かみさんはそのサポート。暇なのはS司と私だけ。
前夜の内に沢渡着。翌日バスで上高地入り。その足で槍を目指し、午後4時頃肩の小屋に到着。槍には長蛇の列が出来ており、小雨も降っていたので部屋で一眠り。
夕方周りの人の話し声で雨が上がった事を知り、二人で出掛けました。あの長蛇の列は周りの雲と供に雲散霧消。快適な登りとなりました。S司はルート以外に自分のルートを求め変な所を登っていました。まだ岩が濡れているというのに運動靴のままでよく行くものです。
山頂に着くと私達以外には二人しか居ませんでした。
日暮れ前の一時、消え残った僅かなガスを身に纏い、雨に洗い流された鮮やかな山肌が夕日に輝き、えもいわれぬ程の荘厳さを醸し出していました。
S司も甚く感動したようで、冷え込んでくる山頂からなかなか離れようとしませんでした。
槍沢の下にはフィヨルドを思わせる顕著なU字谷、その左岸赤沢山からグルリと回り込んでこの穂先の足元に連なる東鎌尾根、その左側の天上沢のなだらかな斜面と北側の千丈沢の間に北鎌尾根。ここから見ると険しさよりも北鎌平のなだらかさが目に付く。
千丈沢の向こうには赤茶けた硫黄尾根。その付け根は双六に繋がる西鎌尾根から派生している。
西側には双六から笠に続く稜線。笠の端正な三角形が一際目を引くその先は錫杖へと続く。錫杖もここからでは岩山には見えない。足元の蒲田川の谷は未だガスに埋め尽くされている。
南に目を遣れば穂高に続く稜線。キレットの向こうに北穂の特徴的な姿。ドームを頭とし両横に肩をいからせた人のように見える。
雨上がりの山、それも西に大きく傾いた陽光を受け一層神々しさ醸し出していた。S司のみならず私自身も10数年ぶりに見る神々の棲家に感極まっていた。


これだけ多くの人が同じ所に集中すれば渋滞もします。同じ景色を見ても渋滞や喧騒の中であの感動が味わえるかどうか。
やはり時期を外し自分ひとりしか居ない中で大自然に接するしか、あの感動は味わえないのでしょう。