破廉恥その3 【釜トン】

今日の夕刊一面にスノーシューを履いた人の写真。
新釜トンの出現で上高地の冬も一般の人達のものになってしまった。
昔は手掘りの真っ暗な中を、過酷な労働に命を落とした朝鮮人労働者の亡霊におののきながら、凍った急傾斜の路面を登らなければ行きつくことが出来なかった別世界である。あの不気味さはとてもひとりでは行く気にもなれないものだった。側壁は岩が露出しておりラテに浮かび上がるその影は、時として亡霊の姿となり思わず後ずさりしたくなる程であった。そして必ず後をつけて来るもうひとりの足音。こちらが止まれば亡霊も立ち止まる。小走りに駆けると向うも駆け出す。不気味ではあるが一種独特の情緒も備えていたあの釜トンは過去の物になってしまったらしい。
便利になれば訪れる人が増えるのも仕方の無い事。しかし人が溢れるほど多いとしても、ところ構わず踏み荒らすのは止めて貰いたい。
こんな所にも社会通念から逸脱した非常識な輩が出没しているらしい。いくら雪が被っていても大勢で踏み荒らせば自然のままではなくなってしまうものである。他人の家の庭に侵入し踏み荒らして平気でいられる。こんな人がどんどん入り、過去の別天地は姿を変えていくのだそうだ。自分の行っている非常識に気が付かない、これもまた破廉恥な事である。