ハイジ

なんだか大騒ぎだそうです。
ヨハンナ・シュピーリの【ハイジ】に酷似した内容の文書がドイツで発見されたそうです。その時期が【ハイジ】発刊の50年も前との事で、【ハイジ】は「盗作ではないか?」と騒がれているそうです。
ニューズで報じられたその原題は【アデレード】。ドイツ読みではアーデルハイト。スイスには独自の言語は無く地域によりその隣のドイツ語、フランス語、イタリア語が公用語となっているのはよく知られている事であり、ヨハンナ・シュピーリはドイツ語圏に居たため、アーデルハイトの略称のハイジとしたのでしょう。
Adelheid の後ろの部分から Heidi となっている訳ですが、[d]を濁らずに発音して[t]の発音になるのはドイツ語の特徴です。かのジークムント・フロイトも英語読みではフロイドと呼ばれているのは衆知のとおりですね。そういえば英語でも過去形で語尾に付ける[d]を[t]で発音する事があります。
このアーデルハイト(アデレード)はごく一般的な女性名で日本で言えば花子さん(いやもう花子さんは女の子の代表名ではありませんか。)のようなもので、それが庶民的な女の子をイメージさせるにはピッタリだったのでしょう。童話【不思議の国のアリス】のアリスもアデレードの事なんですね。
因みに作者のヨハンナも英語読みではジョアンナ、男子名のヨハンもジョンとなります。英語ではなにかに続く[h]は発音しない場合があります。フランス語では[h]は頭に付いていても発音しませんね。英語のハローもフランス語ではアローです。そして[j]はドイツ語などでは[y]の発音となります。イェス(キリスト)が英語でジーザスとなるように。おっとっと、ちょっと脱線。

スイスでは国民的ヒロインであるヨハンナ・シュピーリの盗作疑惑と大騒ぎですが、盗作とか知的所有権とかが言われるようになったのはごく最近の事なのです。物語のストーリーやアイデアを思いつく事に金銭に結びつくような価値を認めることは以前には無かった事です。
それよりも重要な事は世の人々に感動や喜びを伝える事、これが作家や音楽家などの芸術活動に従事する人の使命でした。ストーリーそのものよりも、いかにすれば人々の心に訴えられるか? の方が重要だったのだろうと思います。今でもポピュラー音楽の世界では人の曲をカバーする事は一般的に行われています。同じストーリーでもAさんならこう書く、Bさんならこう書く、それを読み手が自分に合ったものを選ぶ。こんなものだったのかもしれません。
現にヨハンナ・シュピーリは高名を得ようとか金儲けしようとかで物語を書いていません。彼女の内なる心の叫びが彼女にそうさせていたのです。
最初は【J.S.】というイニシャルだけの匿名で発刊しています。また本の売上金を、当時起こった普仏戦争の犠牲者達への支援に全額寄付する事を条件に著作を承諾したとも言われています。

常識とはその時代その時代で大きく異なるものです。そんなものより人々への限りない愛情の方がずっと普遍的です。
盗作などという卑しい言葉で、この高邁な作家の尊厳を傷つけないで居たいものです。