爪を研ぐ

日曜の中日朝刊の三面記事にちょっとひっかかるものがあった。
「希望見えぬ世界一」と題して暗にT社を批判しているものだった。「外注は生かさず殺さず。」などとよく揶揄されているが、そんな噂話と新聞記事では人の捉え方が違う。公けの報道機関の記事とは思えない記事である。
私自身T社の車を好きにはなれない。しかしそれは嗜好的なものであり、だからと言って企業そのものを否定するものではない。
「公器としての報道機関らしからぬ記事だな。」その時はただそれだけで深く考える事もなかった。


今日Net配信の記事で面白いものを見た。TOC(Theory of Constraints:制約理論)で有名なエリヤフ・ゴールドラット博士がこの理論を提唱する前に、実はT社生産方式の生みの親である大野耐一氏と面談していたとの事。そして当時のゴールドラット博士にとって大野耐一氏は雲の上の人のような存在だった事。その大野耐一氏は既にゴールドラット博士のスケジューリングソフトの存在も知っていたし、お互い求めていたものが同じであり、その意見交換から後に提唱される【全体最適】という考え方が導き出された事などを、ゴールドラット博士自身が語ったそうである。大野耐一氏が博士に語ったという台詞が印象的だった。その言葉からTOC全体最適を導き出す為のツールとした訳である。
この記事を見た時に思い出したのが昨日の中日朝刊の記事である。
努力をしない者にかぎって安易に人を批判する。T社生産方式を築きあげた大野耐一氏という怪物のような人物でも当時青二才であったゴールドラット博士と謙虚に接し真摯にその意見を聞いているのである。
「T社は車を造っているのではない。人を造っているのだ。」などとよく言われる。それに対して「外注は人じゃ無いからな。」と言う外注業者もいる。そういう人に限って努力をしていないのである。
T社と関係の深いD社、A社など、或いはYAMAHAもそうだが良好な関係を続けている。それらは皆独自の技術を持ちそれをT社に提供することで対等の関係を保っている。当然T社以外とも取引をしている。
T社は単に公平な立場で他の企業と付き合っているに過ぎない。技術はなにもアカデミックなものだけではない。特に難しい作業でなくても何らかのイノベーションで他社よりも生産性を上げる事ができればそれも技術である。他社よりもそういった競争優位を常に積上げる事がT社が関連会社に要求している事であり、T社自身もそうやって世界一の座に登りつめたのである。
そうT社には特に目立った先進技術なぞ無いのである。無いものは他所から買うか借りれば良い。この単純明快な考えは昔から続いている。自社で無理をして開発するより餅は餅屋に任せる。その方が効率良く結果的にコストダウンになる。こんな考えのどこが非人間的だと言うのだろうか。競争優位を築けない外注は当然価格競争に陥るしかない。それを避けるには常に考え続けるしかないのである。
何も考えず漫然と同じ事を繰返し、時間がきたら帰宅して酒を飲みながらテレビにうつつをぬかしている。こんな事でイノベーションなぞ起こせる訳がない。挙句中日新聞の記事のような批判をする。ちょっとおかしいんじゃないですかねえ。
別にT社を擁護する訳ではないが、あまりにも一方的過ぎるように思い、つい余計な事を書いてしまった。
「希望見えぬ世界一」じゃなくて、希望なんて自ら見ようとしなけりゃ見えるもんじゃないって知らないんですかねえ。全くこの記者さん、おいくつか知りませんが何を見て生きてきたんでしょ。