ゴミだらけの世界

蚊ではなく、一匹の大きなウスバカゲロウが宙を舞っている。そして辺り一面、大小無数のススが漂っている。
これが今私をとりまく世界である。霧は晴れたがゴミだらけの世界だ。


本日紹介状を持ちF保険衛生大へ。
狭い駐車場でのトラブルを避ける為カルちゃんで出動。ついでにかみさんを送りその足で直行。
駐車場もまだ空いており、8:10 には駐車し終える。受付開始まで小一時間待たされるものと思っていたが、案内のお姉さんに尋ねると、「紹介状をお持ちの方はこちらへどうぞ。あと数分で受付開始します。」と窓口へ案内される。そして8:15 には受付開始。受付票を渡され眼科受付へ提出するよう言われる。
言われるまま眼科受付まで行くがまだ開いていない。既に数人の患者さんが待合の席に座っている。別に並んでいる様子もなく、窓口が開いたら我先に争うのかな?と様子を覗う。
お姉さんが出てきて、「8:30に窓口を空けます。受診の順番は既に階下での受付時点で決まっていますので慌てずに受付票と診察券(カード)を出してください。」との事。
そして8:30には受付が開き至って平然と処理が済まされて行く。
紹介状を携えた私に受付係のお姉さんの応援に出てきたおばさんが対応してくれる。
「ご予約で無いので多少お待たせする事になると思います。待合を離れる時はお声をおかけ下さい。」
どうせ午後になるだろうと覚悟してきたので驚きもせず「はい。解りました。」
ここまでは至ってスムーズである。受付開始が8:15って事に驚き、各診療科の前での順番待ちの競争もなく、前もっての説明に納得、混んでいる所へは直ぐ応援が駆けつける、そして待たせそうな場合は事前にその旨を伝える。
ちょっと感心してしまった。動脈硬化を起こしている公立病院では考えられない事だ。長年お付合いしている日赤でさえもここまで患者の利便性には考えが及んでいない。


各診療科の待合席の前に大画面のプラズマディスプレイが置いてある。TV放送が流れていたが8:30を過ぎると病院の案内ビデオに切り替わる。この内容が面白い。腹腔鏡下手術による患者さんの負担減の話や脳動脈瘤手術の独自手法である仮クリップ法とその実績件数がギネス認定された事など最先端の医療についてのものから、長期入院での褥瘡(じょくそう;床擦れ)とその予防法、処置法の充実から発生率が1%未満に激減した、などの患者にとって切実な問題の解決に取組んでいる姿勢が覗える。
また入院食の献立にも積極的に創意工夫を凝らしている点、院内レストランのメニュー紹介(カロリー、塩分量、値段等)も面白い。院内レストランの味付け評価や顧客満足度調査結果なども公表されている。何%の人が不満足と答えているかまでも公表しており、その意見を真摯に受け止め改善に努めていると謳っている。
観ている側からするとその数%の人達の方がおかしいのではないか?と思ってしまうから面白い。案外その効果を狙ったプロパガンダ的な宣伝かもしれない。
しかしこれだけの事を日々積み重ねて行くのは大変な事である。それが出来るのは病院関係者全員の前向きな姿勢の表れだろう。こんな職場なら僕も私も勤めたいと皆が思えるような環境である。
帰りの精算時処方箋を渡された。保険医療の処方箋を扱っている薬局ならどこの薬局でもOKとの事である。因みにスギ薬局などでもOKだとか。医薬分離が浸透しつつあるとは言え同系列の薬局でなく第三者に委ねてしまっている点にも驚かされた。投薬による点数稼ぎで採算を合わせている病院と違い、医療に特化しその技に磨きをかけることで差別化を計り、また患者の利便性を最優先させこの点でも差別化を計っている。
F保険衛生大ってどういう訳かバブリーなイメージを持っていたが、今日の一日でその偏見を払拭させられた。(学生からは授業料をボッタクリ、患者からも高額な医療費をボッタクリと言ったイメージ)
杓子定規な公立病院では受付けを9:00より前にずらすなんて事は考えおよびもしない。患者(顧客)の為なら固定観念なぞぶち壊す、なんて事は民間(私立)だから出てくる発想です。


話を診察に戻す。
覚悟とは裏腹に、10時前には診察前の眼圧と視力検査を受け、瞳孔を開く目薬を点眼。
そして11時前には診察。その時手術の内容とリスクの説明を受ける。飛蚊症が酷くなったり網膜剥離が再発する恐れもあるという。あまり脅かさないでよ。実のところはどうなの。同意書にサインして一度待合へ。そして今日その手術を実施してくれるとのこと。
次に呼ばれると手術の担当医は若くてチャーミングな女医さん。芸能人と見まごうほどにメチャクチャ美人である。ついウケ狙いでしょうもない冗談を言ってしまう。それに対し嫌な顔も見せず対応してくれる。医者への教育も行き届いているようだ。
手術と言っても、レーザーで人工レンズ内側に残してある透明な膜に穴を開けるだけである。その膜が白濁しているそうだ。白内障等の手術で人工レンズを入れた人は3年ほど経つと30%の率で白濁するそうだ。そんな事なら最初から開けといてくれれば良いのに…。
パチン、パチンと目玉を覗き込んだまま同心円状に膜を焼き切って行く。100発近く打っただろうか、レーザーを終えて眼底検査。膜の真ん中部分が上の方で繋がったままレンズ中心付近をゆらゆらしていると言う。再度レーザーを宛て焼き切る。その真ん中部分の膜が眼球内を漂っているそうだ。あっ、この透明のデカい薄葉蜻蛉がそうか。無数に漂っているススが焼き切って出来たカスなのか。フムフム。
何れは融けて身体に吸収されるので今よりは飛蚊症も緩和されるらしい。霧は晴れたが暫くはゴミだらけの世界だ。
術後暫く後に眼圧を測る。念入りに何度も計ってくれる。高すぎて計り直しているのだろうか。5-6回計った後に「29です。」平常時で14-5だから倍まで上がっているって事か。炎症が起こり今夜くらいに眼圧が最も上がるだろうとの事。そして明日も検診に来るように言われた。「夜、頭痛がするようなら眼圧が上がり過ぎているので、遠慮せずに来てください。」と涙がちょちょぎれる程の有難いお言葉。またまた感心させられてしまった。
心配した網膜剥離は今のところ大丈夫だが眼圧が高いと何らかの副作用も考えられる。まあ処方された薬を飲んで点眼して明日の診察を待つとするか。
ああ、これで明日もこのチャーミングな先生に会える。嬉しいな、ウッシッシ。(単純なおっさんである。)


長い診療の後、精算時に駐車券を渡す。【無料】の印を捺してくれる。「えっ、駐車料金もタダ?」いやあ、本当に良い病院です。毎日でも来たくなっちゃいます。いや、やはり病院とは縁が無い方が良いですね。