③前尾根の不思議 その1

確か下のチムニーの次のピーク(今風に言うならP-5)への登りは【滑り台】と呼ばれる凹角だったように思う。
なにぶんおつむの出来が悪いので、よくは憶えていないのだが、いろんな記憶の断片を繋ぎ合せるとそうに違いが無いと言う結論に達するのである。
尾根に向かって左側へ進むと、足元が藤内沢にスパッと切れ落ち、その向うに凹角の取付きがあった。右側が壁になっておりそこにボルトが打ってあり、それを支点として凹角に乗り移るのである。割と広い凹角で底面は丸く抉れており、その真中に細いクラックが走っていたように思う。
前尾根フランケの上に位置しており、先に述べたような所なので、落ちれば藤内沢に真ッ逆さま。ジッヘルする側も先に述べたボルトでのグリップビレイとなり、緊張を余儀無くさせられる所である。
天気が良く岩が乾いていれば緊張感と相俟ってとても楽しい所なのだが、濡れていたり無精して運動靴で来た時なぞは、前尾根で最も嫌な所なのである。
最近なにをトチ狂ったか、前尾根Hikeをやっている。20数年ぶりということもあって、初日はここはパスろうと思っていた。ここは尾根の反対側にⅡ級程度の岩稜帯がありパスれるのである。
再開二回目でこの滑り台を確認しようと左側に回ってみた。しかししっかりした岩の凹角は見つけられなかった。別の所か? と来る度にそれらしい所を探しまわったが未だ見つかっていない。
あれだけの長さ、大きさの岩溝がそう簡単に崩落するとは俄かには信じ難い。もしそうだとすれば藤内沢が埋まってしまうほどの規模である。何度かに分け徐々に崩落していったものなのか、その都度藤内沢も様子を変えていったものなのか。前尾根Hikeを再開してからは未だ藤内沢は通っていないので崩落の名残があるのかどうかは解らない。いや、比較すべき昔の様子すら覚えていないので比較のしようがないか。


それとも、・・・あの【滑り台】の記憶そのものが元々無かったものなのかも定かではない。どこか全く別の場所と記憶が錯綜していたりして…。