御在所の七不思議 ②

② 後尾根の不思議
昨年だったかな? 中道の暑さに我慢ができず、分岐から裏道に回った事があった。期待のササユリを諦めてお付合いしてくれた人達へのプレゼント代わりに後尾根を案内した。
ここは藤内が混んでいるときでも滅多に人が来る事は無くいつもひっそりと静かな所だった。
一壁の上に位置し、最上部には大きなテストストーンを擁し、新人のお稽古には丁度良い所だった。
たとえテストストーンと言えども、高度感があり落ちれば勢い余って中又の底まで50m以上の空中遊泳をすることになる。
このテストストーンの下はトンネルになっており、屋根はテストストーンの岩、床は砂ザレの急斜面となっていた。テストストン前面から潜り込む事も出来たが、普通は登りきった上から砂ザレに跳び下りていた。
この砂ザレから踏み跡を辿り上へ上がって行くと中道に合流するのである。
中道上部のテラスから少し上がった所に、北側が開けトラロープが張ってある所があるが、丁度そこへ出てくるのである。


20数年の時を経て微かな記憶を辿りながら一壁上から後尾根を辿る。記憶が途切れているだけでなく、確かに昔とは様子が違っている。
右側のルンゼ沿いに登ると途中に大きなチョックストーン。
「あんなもんあったかなあ?」
登りつめると、テストストーンが無い。あるのはその下にあったであろう砂ザレだけだ。
前尾根下のテストストーンの優に二倍はあったかと思われるものが影も形も無いのである。そういえばあのルンゼのチョックストーン、あれはテストストーンが落ちたものだったのだろうか。もしそうだとしていつ頃のことだろう。人への被害は無かったのだろうか。
あんなでかいもの、どうすれば落ちるのだろう。その下の岩尾根は全く崩れていないのである。きっとダイダラボッチが積み木遊びをしていて置き忘れたのであろう。


テストストーンでのお遊びは逸してしまったが中道への登路を案内する。
砂ザレからほんの数分で中道に合流した筈だが一向に着かない。おまけに昔のような一本道ではない。途中で岩を巻いたり木の根を掴んでの薮漕ぎである。
今、冷静に地形を見ると、とても数分で中道に合流できるものではない。それなら私の記憶が違っているというのか?
いや、確かにテストストーンの砂ザレから微かな踏み跡を辿れば5分ほどで中道のトラヒモ地点に合流した。
あの頃は後尾根上部にはいつも四次元トンネルが存在していたのかもしれない。そのトンネルの扉を開けるのはあのテストストーンだったのである。