環境問題はなぜウソがまかり通るのか

高校の時、物理の教科担任に竹屋という先生がいた。
高校時代は私にとって、大きな影響を与えてくれた多くの先生方と巡り会えた貴重な時期である。
竹屋先生もそのひとりである。
その授業初日、先生から教わった事は40年経った今でも鮮明に覚えている。
「今から物理という学問について最も重要な事を話します。
琵琶湖には毎年××立方mの水が流れ込んでいます。また○○立方mの水が流れ出しています。琵琶湖の面積は○×平方kmです。
さて×○年後、琵琶湖の水位はどうなっているでしょう。」
皆単純に流入量と流出量の差を面積で割り、それに年数を掛けて答えを出した。
先生の答えは「変化なし。これが物理という学問の基本的な考え方です。」
不要なものは無視する。それだけに設定条件により答えはいくらでも変わる。多様性を大きく含んだ学問である事を最初の授業で学んだのである。こんな教科書に載っていない、それでいて最も重要な事を、最初の授業で教えてもらったのである。


今朝の中日新聞サンデー版の見出しが、「温暖化、進む海面上昇」であった。
「またか。」と苦々しく思いながら目を通すと以前のような何mもの上昇といった不安を煽り立てるような内容でなく、ごく常識的な内容であった。データ自体はIPCCからのもので、今世紀末予測で18cm〜59cmの上昇、原因としては海水と陸地の膨張率の差であることが明記されていた。水位上昇よりも台風の規模の大型化による高潮などの被害を懸念した内容で、一昔前のプロパガンダとは一線を画している。
「へ〜、中日新聞も成長したやんけ。」何の裏付けもないニュースソースを鵜呑みにしてまことしやかに書き立てるものとは違い大した変貌ぶりである。
そこで表題の本が是非とも読みたくなり、土砂降りの中を本屋までわざわざ買いに行った。
この本は大分前から興味を抱いていたのだが値段が廉い為Net販売では送料がかかる。それで何かのついでで本屋に行った時にでも、と思いながらつい延び延びになっていたものである。
TV,新聞などのメディアの性質の悪さは私もよく感じている所であり、筆者の憤りも充分納得できる。それにも増して憤りが隠せないのは官主導の今の政策である。筆者は【故意の誤報】なぞと生易しい表現をしているが、これは明らかに犯罪である。その片棒を担いでいたのがメディアである。その片割れの中日新聞が割りと公正な記事を載せるようになった。これは驚きである。微かな希望も湧いてくる。
いたずらに恐怖心を煽りたて、それで売り上げを増やそうとするペーパーバックもどきのメディアから、本来の報道機関の姿に戻りつつある。いつまで続くか解からないがなんとなくHappyな気分にしてくれる。


IPCCの報告にしてもこの条件ならこう、あの条件ならあれ、と設定条件次第で結果は大きく振れる。それだけ多様性を含んでいるのである。それを逆手に常識ではありえないプロパガンダを流布するのはなんらかの悪意、私欲が絡んでの事である。
今更ながら竹屋先生の教えの重要さが身に染みる。


この本、200頁少々であっというまに読み終えてしまいます。出版社は【洋泉社】。巻末に記されている洋泉社の特徴がまた面白い。
1 同時代の最も熱いテーマをいち早く取上げます。
  ………体験・現場主義に貫かれた取材でお届けします。
2 既成概念を疑います。
  ………既成概念に囚われることなく、既存の定説・常識に挑んで行きます。
3 タブーに挑戦します。
  ………たとえば、新聞、雑誌、テレビなど大手マスコミでは、広告クライアントへの配慮からその企業に関連するネガティブな情報を入手していても報道しないこともままあります。当シリーズではそうしたタブーに屈することなく、………。


絵空事かどうかは別にして、今までこんな宣言をする出版社があっただろうか。
これもまた新しい波かもしれない。腐りきったメディア業界に波紋を投じる一石になって貰いたいと切に思っています。