Vertical Limit

先程夕刊を見ていて目に付いた。今夜9:00からTVで放映するそうだ。
まだ1時間程先の事だが、たぶん見ないだろう。趣味の問題かもしれないが、また見たいと思わせるほどの映画ではなかったような…。
一応封切り時には映画館で見ているのである。おバカな私は山が舞台の映画は一応見ないと気が済まない。しかし見て面白いものとそうでないものとがある。私の趣味からはこの映画は外れているのである。どこがどう面白くないかと聞かれてもまともに答える事はできない。理屈ではなく感性の問題である。見たくないものは見たくないのである。
確かに雄大な山の景色だけならずっと見ていても飽きる事は無い。しかしむなくそ悪いストーリーと抱き合わせなら見ない方を選ぶ。実際にはありえないマンガチックさも、いくらお話とは言え辟易する。
山の映画で印象深い作品というと、最近のものではクリフハンガーである。(もう最近ではないか?)ご存知スタローンの作品である。
スタローンが好きなせいかもしれないが…。ロッキーは最新作は未だだが他のは全て見ている。私の頭の中ではロッキーとスタローンの人間性がダブってしまっているようだ。
このクリフハンガーはT哉が初めて見た字幕スーパーの原語のままの映画である。くれよんシンちゃんのアニメばかり見ていた子が初めてみたハリウッド映画である。デカイ画面いっぱいに広がった大自然のスペクタクルと演技派の超一流俳優達の織り成す人間臭い物語に大きな衝撃を受けたようだ。小学生の子供にでも、良い映画とくだらないTVドラマとの違いは解かる。世の中にこんな面白いものがあったのかと初めて気付いたようだった。山岳救助隊のヘリの操縦士(名前はフランクだったかな〜)があっけなく殺されてしまった事にとてつもなく大きな衝撃を受けたようだ。その後事ある毎にその事を口にしていた。
クリフハンガーとは言葉通り海岸の崖にぶら下がっている事を指し、ハラハラドキドキする物語の手法あるいは通称である。そんな言葉と本物の岩壁とを掛け合わせている所にもスタローン映画の趣味の良さが見受けられる。


ずっと遡って私がまだ小学生の頃、(それも神戸の頃だから小四以下である。)学校の講堂で見せてもらった映画がある。当時はまだ珍しい総天然色映画だった。(こんな言葉、カビがはえてますかねえ。)
ひとりの男が岩山を登っている映画である。落ちるシーンもあったが何事もなかったかのようにまた上り始めるのである。音は聞こえていたが台詞が全く無い映画だった。
その後社会人となり山にのめり込むようになって始めてその映画が何であったかわかったのである。ガストン・レビュファの【星にのばされたザイル】である。
レンタルビデオで見れるようになったのは、山を引退し子供が出来てからである。なんのストーリーもない登攀の映画なのだが、山そのものが、登攀そのものが、崩れ落ちるセラックや透き通った空気や高山の陽射しそのものがドラマなのである。
レビュファを指して【山の詩人】という人もいる。これらレビュファの映画を見ているだけで何の説明も要らない。大自然の詩を感じるのである。【星にのばされたザイル】【星と嵐】などは映画だけでなく文庫本でも出ていた。本を読んでいるだけで視覚的に情景が見えてくる。映画を見ているかのように…。


こういった映画を見てしまった者の目からすると、【Vertical Limit 】は趣味の悪い世間話のようなものである。
こんなもの見る時間があるのなら是非レンタルビデオでレビュファの映画を見てください。上質の詩に接する事であなたの感性はより一層洗練されるでしょう。