着せ替え人形

先週からかみさんが私の夏物スーツを買うとうるさい。
別に不自由している訳でもなく、真夏には上着を着ることも滅多にないので渋っていた。
「不自由してないからいい。」
「みすぼらしいから厭なの。」
「貧乏人には丁度似合っている。」
「貧乏だからこそ外見だけでも整えるの。」
「・・・・・・。」
いつもこのパターンで押し切られている。
そしてこの手の買い物はいつも伊藤忠が会員限定で開催しているバーゲンへ行く事になっている。
わりと大きな規模で、金城埠頭、吹上等の展示場で催される。
「よ〜お〜ふく〜の青山や名紳で良いじゃないか。」と言っても、
「あんなとこダメ!」と押し切られてしまう。
私には決定権は無いのである。そして湾岸道路の通行料を払い、駐車料金を払ってまでも行くのである。
一昨日の5/26(土)には近所の奥様方と共に出掛け、既に偵察を済ませているのである。そして、
「300円のミニクーパーが会場に展示してあったよ。カルちゃんが動かなくなったらあれにする?」
「新型ミニは殆どBMW製だからな。ボディもしっかりしてるし個性的でもあるし・・・。」
いつのまにか完全に乗せられているのである。それこそ買えもしないのに。


そして昨日行って来た。S司をA駅まで送って行った為いつもと経路が違ってしまい、結局星崎から名四(古いな〜、23号線の事です。)に入り金城埠頭へ。湾岸道路は使わずに済んだ。
手続きをして入館、紳士服ブースへ。
入り口付近で目玉品の首吊り、¥15,000.を発見。A4サイズを羽織り、「これで良いわ。」
かみさんはしげしげと見つめ首を傾げている。
そして、「他のも見る。」と言い隣へ移動。隣にも¥18,000.くらいのがあり、これも首を傾げてパス。
その隣、ダーバンのスーツが¥31,500. またその隣の海外ブランドのナントカ(わしゃよう解らん。)が¥35,000.くらい。
もう一度最初に戻り、¥15,000.のものを羽織る。おばさんが出てきてなんだかんだと説明してくれる。腕を回してみると少々突っ張り窮屈だ。じゃあA5でと1ランク大きめのものを羽織るが少しは良くなったがやはり突っ張る。わしゃ、肩幅が広いからなあ。
一応ズボンの裾の寸法は取って貰ったが、ウエストはガバガバ。かみさんの顔色を窺うと不服丸出しである。後でまた来ますと言い残し、ダーバンへ。
かみさんはこれが一番良いと言う。同じA4でも肩幅もゆったりしており腕を回しても全く違和感が無い。
そう言えば昨年の秋口に買ったのもダーバンだった。今来ているものの中にもダーバンがいくつかある。昔アランドロンが「ダーバン、セレラゴーン、デローン、モデーンス。」とか言って宣伝してたやつだ。
当時はいつもGパンにTシャツ、寒ければセーターの上から作業服が普通だったので、スーツなんて外回り用に数着あっただけだ。それも夏冬兼用で。自分がこんな物を着るようになるとは夢にも思わなかった。
年を重ねる内、職場も会社としての体裁を整えるようになり、今では不本意ながらいつも首紐で繋がれているのである。
ズボンのウエストも多少余裕が有る程度でピッタリフィット。同じA4で何故こうも違うのだろう。
今着ているもので1着ベルギー製のナンタラ(これもよう解りまへん)と言うのがあるが、これもA4サイズながらゆったりピッタリなのである。同じ首吊りなのにねえ。(デザインがベルギーのなんたらで、物は日本製です。)
私の体型は欧州人タイプなのだろうか? 唯一足が極端に短い事のみを除いて。
そう言えば山靴も欧州製しか履いた事が無い。典型的な甲高幅広の日本人の足なのに、日本製の山靴は全くダメなのである。
思うに、洋服や靴なんていうのは元々欧州で発達したものである。日本にはその文化の歴史が無いのである。いくら外見ばかり真似ても長い歴史の中で培われてきたノウハウは追いついていないのかも知れない。人の動きに合せ無理なくその機能を果たす、という最も肝心なものが日本製品にはまだ不足しているのかもしれない。山靴などまさにそれが如実に表れているように思う。(今の日本製山靴は昔より格段に良くなっているかもしれませんが。)私の変形足はハンワグかガリビエール、あるいはドロミテしか受け付けないのである。


値段は張るが、同じ着るなら不自由を感じながら着るよりずっと良い。元の値段が¥79,000.というのも得をした気分で尚更良い。
なぞと本人は自分で決めて満足しているように思っているが、実はかみさんの手の中でうまく操られているだけかもしれない。
結局私は、かみさんの着せ替え人形なのである。


その後かみさんは自分のGパンを¥2,900.で買い、「あんたの1/10で済んだ。」と大満足なのである。
しみったれ家族の大奮発物語でした。