ネクライマー

昨日、鎌ヶ岳山頂での事。
Iさん(お父さん)が若い人達に何か話しかけられていた。ザックに付けていたメットが目に付いたらしく何かを聞かれたのだろう。岩登りをしてきた旨を話すと、「クライマーですね。」なぞと言われていた。
それを耳にした私はつい「ネクライマー。」と独り言をもらしてしまった。しまった!お母さんに聞こえてしまったかな。


今ではもう遠い昔話となってしまったが、当時は山へ行く連中というと街では人に相手にされないネクラばかりだった。中でもハイカーの域から逸脱し山にのめりこんでいる連中なぞ、特にその傾向が強かった。そういった連中自身、己の性格を認識しており自らを【ネクライマー】と自嘲気味に呼んでいた。
山で人に挨拶されても口ごもったままはっきり声に出して挨拶出来ない。おのずと人の居ない所、同種の人間しか居ない所に入り込み、一層そのネクラさに拍車がかかる。
これらは団塊の世代を底辺で支えていた連中である。職場で認められる事もなく、自己表現の仕方も解からない不器用な人ばかりで、どうしようもない不安、不満、悩み、孤独感のはけぐちとして山にのめりこんでいた世代である。
その人達も殆どが他に生き甲斐を見出し山から離れて行った。今では社会的にもある程度の実績を重ね、仕事に社会貢献にと多忙な日々を送っている。若き日の不器用さなど今では微塵も感じさせない成長ぶりである。


そんな人達の中で未だに若い頃同様、不器用なまま取り残されているのが私自身である。子育てが一段落し他に打ち込むものも無く結果として昔に逆戻り、またもやネクライマーに戻ろうとしている。
目立つメットはザックに隠し、人から話しかけられないようにしている姿は昔のままである。
三つ子の魂、百まで。この言葉は私にぴったりである。本当に成長しない人間だ。