うちの子に限って!

うちの末っ子(飼い犬のポリー)にこんな事がありました。
子供達がまだ小学生の頃、学校からの帰りに子猫がついてきました。野良猫と言うにはあまりにも毛並みが良く、素人目にも血筋の良さが伺えました。早い話、誰が見ても生粋のペルシャ猫であることがわかるものだったのです。
「迷子かもしれないし、暫く預かってみようか。」などと思ったりしましたが、家にはポリーもいるし、飼い主が現れなかったら後が大変。現れたら現れたで手放すのが寂しいし。
門の前であれこれ思案しているところにポリーが大きな身体で尻尾を振りながら寄ってきました。
いくらおとなしくても子猫にしてみれば怪物としか見えません。鼻をすり寄せてくるポリーに必死の形相で威嚇、それでも寄ってくるポリーの鼻先に猫パンチ。ビクッとしながらでも鼻先をかわす敏捷さはポリーも然る者。さすがは鳥猟犬。振っていた尻尾を股の間に巻き込みながら、それでも好奇心の方が勝るのか鼻先を近づけて行きます。子猫は一層の形相で威嚇し続けます。
ここはエスカレートする前に私が間に入り子猫を抱きかかえます。ポリーは上に視線を移しまた尻尾を振りながら子猫を興味深げに見ています。片手に入ってしまうほどの小さな身体を両手で大事そうに胸に抱えているとつい愛おしく頬擦りしたくなっちゃいます。
そして誘惑に負けついスリスリ。子猫は抱かれながらもポリーに向ってまた威嚇。間髪を入れず今度はポリーが鼻に皺を寄せ凄い形相で飛び掛る。子猫は慌てて私の胸から飛び上がって逃げ出しました。
ポリーの威嚇はそれだけで後はただじっと子猫を見ているだけです。
普段おとなしいポリーの意外なふるまいにその場に居合わせた全員が驚かされました。
思うに私が子猫を猫っ可愛がりしたのがポリーの嫉妬心に火を点けたようです。
「私でさえあんなに可愛がって貰った事がないのに、新参者のあんたがなんでそんなことして貰ってるのさ。そのくせ私を威嚇するなんてなによ。」きっとこう思っていたのでしょう。
飼い犬にしても子供にしても、周りの大人たちの知らない所では普段とは違うふるまいを見せるものです。犬でさえこうなのですから知恵のついた子供なんてその比では無いでしょう。
「うちの子に限って絶対にそんな事しない。」なんて思うのは親バカ以外のなにものでもありません。こういった二面性が芽生え始めるのも成長の一過程。これが無いっていうのは成長が順調でないとも言える訳です。
親の知らない面がある事を充分認識しながら子供達と向き合って行きたいですね。


ついでにかみさんから聞いた昔話。
ポリーが家に来てから間もない頃、アヒルの一家が家の前を歩いていたそうです。その中の一羽のヒナがポリーに近付いて来た瞬間、電光石火の早業で一飲みしてしまったそうです。
「大人しい顔をしているくせに酷い事をする。」とかみさんはご立腹でしたが、これが猟犬の性なのでしょう。動く物に反応する野生の血がそうさせるのでしょう。
またポリーの小屋の周りにおびただしい蛙の死骸や蜂の死骸が落ちていた事がありました。不思議に思っていたある日、その原因を目撃してしまいました。なんとポリーが大ジャンプしてホバリングしている蜂をキャッチしていたのです。20cmほどある大きな口の歯の部分だけで2cm程度のアシナガバチを一撃。口内を刺す暇もなく蜂は絶命しポリーの口から吐き捨てられます。こうやって鳥猟犬の訓練を本能のまましていたのですね。蜂に比べれば蛙なぞ容易に仕留められます。嗜好に合わないのか噛み潰すだけで辺りに吐き捨てたままです。
散歩中、道に落ちていたビニール袋が風に揺られて動いているだけでビクッとして尻尾を股に巻き込んでしまうほど臆病なポリーでもこういった一見獰猛なふるまいも見せる事があるのです。獰猛というより実は動く物に本能的に反応しているだけなのですが。
飼い犬のふるまいから、飼い主が感じるものと実際の理由との間には、かなり乖離したものがあるように思います。飼い主はつい感情移入してしまいがちですが、実際には本能のまま動いているだけ。という事のように感じる事が多々あります。
人の子以上に飼い犬には、「うちの子に限って!」なぞと思わない方が宜しいようです。