まゆつばなお話

今ではすっかり有名になり、「沢登りをする人なら是非一度は訪れたい所。」と言われて久しい赤木沢。おかげで今では猫も杓子も出かけるようになり、かなり賑わっているようです。
とかなんとか言いながら、私自身は結局訪れる事はありませんでした。そしてこの先もたぶん訪れる事はないでしょう。ちょっと遠いですもんね。
私が赤木沢の名を知ったのはもう30年以上も前の事です。うちの会の親分が新人の女の子に必ず薦めるのがこの赤木沢だったのです。赤木沢自体は沢登りのコースとしてさほど難易度が高い訳ではないのですが、景色、雰囲気、明るく開放的な地形、そこそこ楽しめる点、源流域のおおらかさ、たおやかな山並みの連なる北アルプスの奥座敷、などの好条件から他の沢とは一線を隔すものがあるようです。
その当時、私が初めて耳にしたくらいですから、決して今のように有名ではなくごく一部の人達の間で隠れた人気があった程度だと思います。
そして会の山行形態も岩が主流でしたから「何かの機会があったら行ってみようか。」程度にしか思っていませんでした。
私なぞそんなマイナー(当時は)な所より東沢の方がのんびりと楽しそうでそちらを計画した事があります。
釣好きでもあった親分はどこへ出かけるにも必ず小さな釣竿を持っていました。
そして釣の話となると太公望まるだしで臆面も無く法螺話をするのが常でした。
「黒部のイワナは人擦れしていないから素人でも釣れる。黒部へ行くなら食料は現地調達だ。毛鉤と米と塩を持って行くだけで良い。」
それを真に受けて毛鉤を買って食料計画を手抜きしようとした事があります。今となっては実行しなくて正解だったと思いますが。
尤も私は食料無しでもある程度は耐えられます。夏場など食欲が無く行動食だけで済ませる事も結構ありました。当時は常時備蓄を持ち歩いていたので。早い話、メタボというほどではありませんが多少脂肪が付いていたって事です。2-3日程度なら少量の行動食だけで済んでしまいます。夏場ならそんなものですが冬場は真似しないでください。冬場の食料は暖房の為の燃料でもある訳ですから。
欧州の人もこの傾向が強いですね。山行中は殆ど口にしないで下山すると馬のように食べます。この方が合理的ですね。長期間に亘る場合は無理ですが、それでもアプローチは長くてもアタックはやはり1-2日と短時間です。山行中にそれもアタック中に普段と同じようにしっかり食べるって日本人だけじゃないのかな。
いずれにしても親分の大ボラに乗せられてエサ無し山行とならなくて良かったです。
山屋、釣師ってほんとホラ吹きばかりですもんね。これでアルコールが入ったら際限がありません。