メロン

「毎日こんな旨いもん食っとんの?」
「毎日じゃないけど食いたきゃ買えばいいじゃん。今はそんなに高くないだろ。」
T哉の問いかけに答えて、ふと自分の子供の頃を思い出しました。
当時は一般家庭においてメロンなんて高嶺の花。まずメロンを食べた事のある子供もいなけりゃ、当然その味も知りません。イメージからいかにも旨そうなのと普通じゃ食べられない、もし食べられたとしたら不治の病に罹っており今生の別れに親が無理をしたとしか考えられないような存在でした。
群を抜く貧困家庭の私も一生の内一度は食べてみたいと思っていました。思うだけならタダですから。
それが高校の頃だったか世の中にプリンスメロンなるものが現れました。こちらはずっと庶民的な果物でひと夏に一度くらいは食べる事ができたかと思います。まあ甘くて旨いには違いないのですが、これってマクワウリとどう違うの?
革にひび割れの無いプリンスメロンよりひび割れだらけのマスクメロンが食べたい! 一生一度で良いから。相変わらず私の胸に秘めたマスクメロン願望は大きく膨らんだままなのでした。
その後暫くして本物のメロン同様のネット(ひび割れ)の入ったアンデスメロンが現れました。
マスクメロンに比べ小粒ですがお値段が格段に安く、これは何度となく口にしました。本物との違いは比べようがないので解りませんでしたが、きっとそれほど違いがあるわけでも無さそうだし、だんだん私のマスクメロン願望は萎んで行きました。
結局革に皺のあるものが食べてみたかっただけなのかもしれません。味もプリンスメロンに近いですし、きっと革を剥いてサイコロ状に切ってしまったら私には味の判別は付かないような気がします。


Wikipediaアンデスメロンの記述に面白いものがあったので掲載しておきます。
冗談みたいな話ですが、そんな裏話があったかと思うと楽しくなっちゃいますね。


名前の由来
アンデス山脈とは、全く関係無い。メロンの大敵のうどんこ病耐病性・つる割れ病抵抗性品種で、栽培し易いことから、「作って安心」「売って安心」「買って安心」より「安心ですメロン」というネーミングで売り出す予定であった。しかし、名前にセンスがないとのことから、略して「アンデスメロン」となった。(開発元である株式会社サカタのタネへの取材から、メロンは芯をとって食べるので、当初の「あんしんですメロン」から「しん」を取り「あんですメロン」と名付けたとの正式な発言があった。)


話を戻して、かみさんと一緒になり北海道へ行った時に夕張メロンと出会いました。と言ってもお土産に買ったシャーベリアスとか言うゼリー菓子でしたが。それが殊の外旨くお気に入りになってしまいました。その後もスキーなどで行く度、六花亭のバターサンドやロイズの生チョコと共にお土産の定番となりました。メロンの赤肉を知ったのはこの時が始めてです。
その後夕張メロンが名古屋でも出回るようになりお値段も特別高い訳でもないので、時々我家の食卓にも上がるようになりました。
家庭で子供達と一緒に食べるマスクメロン、生涯一度は食べてみたいと思っていた子供時代を思い出すと、つくづく日本って豊かになったんだなと思ったものです。
時代は代わり今市場で売られているマスクメロンは赤肉に淘汰されてしまったようです。マーケットで一時期溢れていたアンデスメロンも目にしなくなりました。相変わらず果物屋さんでは贈答用として一玉5千円以上のものも目にしますが、マーケットの店頭にある庶民が口にするものは2千円以下です。
ひと夏に何度も口にするようになり特段感慨もなく食べていたメロンですが、冒頭に記したT哉の言葉につい昔のマスクメロン願望を思い出した次第です。


今は所帯を持ち、ふたりだけの生活を楽しんでいますが「メロンくらい食いたきゃ食えよ。」大昔と違いそんなに高いものでもなし。
嘱託の身のオヤジより年収は追い越してるんじゃないか。ましてMちゃんもまだ働いているんだし。
かみさんがT哉の事をケチだと言ってましたが、誰に似たんでしょうねえ? あっ、俺か。


休日早朝から家に来てバイクに乗り換え奥矢作を走り回っているようです。スポーツタイヤが半年で磨り減ってしまうそうでそれが1本約1万円。酒も煙草もやらない、まして女遊びも。唯一の贅沢がバイクならって事でMちゃんも大目に見てくれているのでしょう。
おいT哉、自分だけ旨いもん食っとらんとMちゃんにも持ってってやれよ。