心配り

先日T尾さんから聞いた話。
お嬢さんが屋久島へ行った時、ガイドさんに勧められて野生の鹿に蜜柑の皮をあげたとか。
野生動物に餌付けすることの善し悪しは別にして随分ワクワクと心躍らせた事でしょう。
その話を聞きながら我家の事を思い出していました。
あることがきっかけでH高原に在った山の会の小屋を閉鎖する事になりました。シーズン中は毎週土日は一家で泊り込み、そこをベースにスキー三昧していたのですが、小屋が無くなった事をきっかけにもっと遠くへ行くようになりました。その頃T哉は自力滑走できるようになりどんな所でも平気で滑っていました。滑れないのはS司だけなのでかみさんがおんぶして滑っていました。
ある時名鉄が運行しているパル特急というバスツアーで志賀高原へ行きました。当時は運転手が2名で交代しながら運行し、仮眠をとっていない時は添乗員の役目もしてくれていました。
夜通し走り、夜が明けかけたころ志賀高原の上りにさしかかりました。急にバスが減速しゆっくりと停まったと同時に添乗員兼務の運転手さんがマイクで呼びかけます。
「今前方の道路に野生の猿が居ます。餌やりしたいお子様はいらっしゃいますか?」
さっそく私が手を挙げます。そしてT哉を行かせます。
「餌は蜜柑の皮くらいが良いですよ。実まで上げることはありません。」という添乗員さんに従い急いで蜜柑の皮を剥きそれを持たせます。
バスから降りたT哉は恐る恐る猿に近付きます。皮を差し出すと相手の猿も心得ているかのように皮を受け取りそれを頬張ります。
意気揚々と引き揚げてくるT哉の顔には満面の笑み。4歳になるかならないかという時期に味わった貴重な体験です。
幼い子供にとって自分とさほど大きさの違わない野生の猿との交流にさぞかしワクワクした事でしょう。
野生とは言えこの辺りの猿は既に半分餌付けされているようなものだったのかもしれませんね。
こんな所でわざわざ停まった上に小さな子供に心ときめく体験をさせてくれる。業務マニュアルにそんな事が指示されていたとは思えません。全て咄嗟の判断での心配りだったのでしょう。
最近のバスツアーは運転手が一人きりで超過密スケジュールをこなしているとも聞きます。25年も前の事なので、それこそ古い良き時代だったって事でしょうか。この大らかな余裕が顧客サービスにも繋がっていたのだと思います。
これ以降我家のバスツアーはパル特急を優先させていたのは言うまでもありません。