衣食住でなく食衣住

円高、一向に収まる気配がありませんねえ。
外貨立て債権も円換算の価値が下がる一方で、かみさんの不機嫌も一向に緩和されません。
買うなら今がチャンスなのですが、沈み込んだ日本社会のマインドではそんな意欲は全く出てきません。
後になって「あの時買っておけば良かった。」と思うのは目に見えているのですが。
この世相、今後はこれが常態化するのでしょうね。戦後の驚異的な復興はバブル景気を最後としてもう二度と起こる事はありません。それほどまでに国民生活も豊かになり過ぎていたのです。
円高により輸出産業は淘汰され一部のみが辛うじて生き残るだけでしょう。それも生き残れただけで以前のような繁栄は期待できません。


小学生の頃、社会科で【加工貿易】という言葉を聞きました。「資源の無い日本はこれにより付加価値を付けるしか生きる道は無い。」と先生が仰っていました。
その教えに従い殆どの子供達は【ものづくり】こそが日本の生きる道と信じ、戦後日本の繁栄に貢献してきました。そして先進諸国にやっとキャッチアップしたと思ったのも束の間、バブル崩壊と同時に出口の見えない迷路に迷い込んでしまったという訳です。
通産省の努力のおかげで二次産業は大きな成長を遂げる事ができましたが、一方で一次産業はひとり立ちできない脆弱なものに貶められてしまいました。戦後の政府の方針として二次産業に注力するあまり一次産業をないがしろにし過ぎたのかもしれません。GHQの指令で農地改革により大地主から小作に安価な価格で農地の再配分をしたまでは良かったのですが、それに続く間違った農政により米作農家を甘やかし過ぎてしまいました。人なんて子供と同じ。甘やかしすぎると碌な事はありません。ゆとり教育世代とその成れの果てのNEETも甘やかしすぎた結果の産物です。
米作農家にしてもゆとり教育世代にしても被害者には違いありませんが、各個人が冷静に世の中を見ていれば異常に気付いた筈です。やはり目の前の飴に目が眩み、周りを見なかった人々自身の責任でもあります。
ただ農政にも多少明るい兆しがあります。まだまだ片手落ちのところもありますが、法人化が認められてかなりの年数が経ちました。今後は法人化が進み大規模農業が増え生産性拡大が期待できます。
法人化を禁止していたのは戦前の地主-小作の関係に逆戻りする事を警戒しての事だったのかもしれません。農家版財閥解体って事でしょう。しかしこのおかげで農業の近代化が手の施しようが無いほど遅れてしまいました。
米国を引き合いに出すと、自由競争のおかげで大規模農業に集約され100年前と比べ何百倍もの生産量となっています。と同時に農業従事者数は数百分の一と激減しています。この農業を離れた人達は二次産業、三次産業へと移り、20世紀の米国の繁栄に寄与した訳です。
子供の躾けと同じで、政府が「あれはダメ、これはダメ。」と言い過ぎると成長の芽が摘まれてしまう事になります。


マスコミは相変わらず【ものづくり】が日本の強みであり唯一生き残る道であるかのように喧伝しています。ほんとアホとちゃうか。
日本人元来の好奇心の旺盛さと勉強熱心さ勤勉さを二次産業に集中させた事が、労働賃金の低さも手伝い戦後日本の驚異的な発展に繋がっただけの事です。その集中させるものはどんな産業であっても良かったのです。
海外に目を向けて下さい。戦後日本の採った道を近隣のアジア諸国が踏襲しています。異常なほどの円高に加え生活が豊かになり過ぎ労務費の高い日本が同じ事を繰り返してもアジア諸国に敵う筈がありません。
他人に有利な土俵で戦っても、勝つ為にはそのデメリットを埋め合わせ尚且つそれ以上の努力をしなければなりません。同じ努力をするならもっと有利な土俵を選ぶべきです。
よくAppleが引き合いに出されます。米国で開発されたものがアジア諸国で生産され世界中に売られて行きます。米国内の雇用創出にはあまり役立っていませんが、大半の付加価値は米国にもたらされています。
フィンランドのように教育水準を上げその人達が付加価値を創出する知識労働者となる。こういった環境が必要だと思います。
そして二次産業に特化し過ぎた反省から一次産業にももっと注力すべきなのではないでしょうか。
一次産業って人が生きていく上で最も重要なものです。俗に【衣食住】と言いますが、食は衣よりも重要です。充分な食べ物があれば裸でも生きて行けます。【食衣住】と改めた方が良いように思われます。一次産業は生きてゆく為に絶対に必要な物、二次産業はあれば便利なだけのものです。戦後の日本は米国の人々に利便性を供する事で栄えてきたとも言えます。
農業を安定して行うにはそれに関係するいろんな環境を整備しなければなりません。当然それらをサポートする二次市場、三次市場も形成されます。とても個人農家達だけで賄えるものではありません。研究開発にしても大規模なものになります。会社なり法人なり組織として運営していかなければこの産業で世界をリードすることなど出来ません。旧通産省が果たした役割を農政省が担い、産官学の頭脳を結集しなければなりません。と言っても現在の農政省では無理なので農政省は潰し経産省が代行する事になるでしょう。
こんな事を思いながらふと宮崎駿の【天空の城ラピュタ】を思い出してしまいました。最先端の科学を身に付けながらも結局は地に足を下ろし農業に従事しながら自然と共に生きる事を選んだラピュタの人達。
我々日本人も工業至上主義から立ち戻り、一次産業、三次産業にも同様の重要性が有ることに目を向けなければならないのではないでしょうか。
そして高度な教育により輩出される知識労働者達が切磋琢磨しあう結果、全産業の生産性を上げ続け地球上から飢餓と貧困を根絶する。

You may say I'm a dreamer.
But I'm not the only one.
I hope someday you will join us.
And the World will be as one.