ペンタックス

戦後十数年、日本の経済復興を象徴するかのように時計、カメラ等の精密機械が世界の市場を席巻しつつありました。
特に写る画像とファインダーとの視差を無くす為に生まれた一眼レフなどは日本メーカーの独壇場となっていました。
日本光学、キャノン、旭光学、東京光学、オリンパス、小西六、ミノルタヤシカ興和、リコー…、数多の光学機器メーカーが群雄割拠していました。
その後、カメラだけでなく光学技術から派生した各種製品の市場を創り出しそれぞれが生き残りをかけて切磋琢磨していました。
合従連衡、統廃合などを繰返し今では当時想像すらできないくらい様変わりしています。「まさかこの企業がこんな事になるとは思いもしなかった。」そんな意外な出来事によく出くわします。
昨日御在所通勤から帰宅後、新聞に目を通していると、ペンタックスがリコーに買収されるとの記事。当時ならその逆は考えられたかもしれません。それほどまでにペンタックスの市場価値は大きかったのです。
世界中の報道カメラマンが手にしているのはニコンニコン以外のカメラを持つ者は全く見かけませんでした。当然ピューリッツァ賞の写真はニコンによるものばかり。ニコンに後塵を拝してはいるもののキャノンもマニアの間では根強い人気がありました。一般的なアマチュアカメラマンの市場ではペンタックスがダントツの支持を得ていました。
トプコン、ペンなども一部マニアの間で支持を得ていましたが、やはり上位三社とはかなり差があったように思います。
三社ともカメラ以外の分野にも進出していましたが、旭光学だけが波に乗りそこねたようです。同じようにデジタル化も進めてきた筈なのに。
旭光学は一時期基板設計用のCADも販売していました。しかしこの分野も新しい波に乗りそこねてしまいました。単なるお絵描きソフトでなくロジックシミュレータ、アナログシミュレータを配線ルーターと組み合わせるといった流れについて行けなかったようです。
ニコンオリンパスなどは光学技術の応用から半導体製造装置に進出しています。キャノン、リコーなどは事務機器に進出し今ではその部門の方が主になっています。旭光学だけが道を誤り数年前HOYAに吸収され、今またカメラ部門がHOYAから放り出される事になってしまったのです。
こうしてみると技術的な優位というのは、微に入り細に入りすぎても良くないようです。その優位性に大局的なものが見えなくなってしまうのかもしれません。
今デジカメ業界で大きな位置を占めている富士フィルム、元々は化学屋さんです。当時もカメラを販売していましたが、そのスタンスは初心者向け製品で市場を広げる為のようでした。市場を広げる事で写真フィルム、印画紙、現像用薬剤などの売上を伸ばそうというものです。
デジカメの黎明期に先を見越して業態転換を図ったのはさすがと言うしかありません。通常なら主な収入源である銀塩写真の延命を図ろうとするものです。それを切り捨ててのデジカメへの業種転換です。その対極にある失敗例がコダックです。写真用消耗品市場で富士フィルムに追い抜かれ、次の波(デジカメへの転換)でも水を開けられ…。
富士フィルムは以前の社名は富士写真フィルムでした。名称から写真を抜いたのは写真以外にも多くの製品を扱っているからです。少し前ですが化粧品にも進出していたように思います。富士フィルムコアコンピタンスは界面活性技術なのだそうです。見ているものが写真だけでないからこんな思い切った決断ができたのかもしれません。大局的なものの見方をしていないとペンタックスのような憂き目に遭ってしまうのでしょう。
往年のファンとしては寂しい限りですが。


そんな視点で見るとデジタル一眼、完全に先が見えています。視差を無くす為に考案されたペンタプリズムなんてもう不要なのです。画像センサーに写ったものをファインダー或いはLCDモニタに写せば視差なんて全くありません。既にこの流れはマイクロ一眼という名前で現れています。ペンタプリズムが不要なら当然ミラーも不要です。そのおかげでよりコンパクトな製品になります。
一眼なんて名前自体が懐古主義の象徴です。一眼メーカーも早く業態転換を図らないとペンタックスの二の舞です。