SONGS

人それぞれ、聴く度に古い思い出が甦り、懐かしさと共に哀愁がこみあげて来る曲をお持ちの事と思います。
TVなどでその曲が流れ折角良い気分になりかけていたところ、思い出の曲と大きくかけ離れたものを聴かされ、幻滅を感じられた方も多いのではないかと思います。
同じ歌手が歌われているのに何故勝手にあんな風に歌い方を変えてしまうのでしょう。歌い手さんの論理としてよく言われるのが以下のようなものです。
「歌手自身も毎日努力して表現力に磨きをかけている。今の歌い方が当時のものと違うのはその成果の現れだ。」
御説ご尤も。なのでしょうが聴かされる側としては釈然としません。
そんな折、ある歌い手さんが仰っていた言葉に「わが意を得たり。」と感動した事を覚えています。
「一度聴き手の方々に届けた歌は、それはもうその方々のものであり私のものではありません。ですから今こうやって歌う機会を与えられても当時のまま忠実に歌うよう心掛けています。」
これが本当のエンターティナーの姿なのだろうと思います。「自分の曲だから自分の好きなように歌って良い。」なんて考えはその歌手の傲慢でしかないと思います。その曲を届ける相手が当時の曲を懐かしがっている人達では無いのなら話は別ですが。


先日TVでまた別の歌い手さんを見かけました。大手スポーツ用品販売企業の宣伝でよく流れていた曲ばかりなので記憶に新しいのですが、もう既に10数年、いや20年近く経つのですね。当時はバブル経済が終焉を迎えた頃でまだその余韻が色濃く、スキーブーム最後の頃でもありました。毎年このシーズンになると新曲を発表しそれがスキー用品の購買を煽っていた頃でもあります。
ご本人もスキーをされているものと推測していましたが、なんと雪のあるゲレンデに来たのはこの番組のロケが初めてだったそうです。
彼女は幼い頃からクラシック音楽を習い始め作曲家を目指し音大に進んだそうです。それが大学生の時、米国の著名な歌手のコンサートに出かけたのがきっかけでポップスに転向、自作の曲を売り込む為に思いつきで作詞し歌ってくれる人がいないので自らが歌ったテープを音楽関係者に送り続けていたそうです。
そんな折、歌手としてデビューするように勧められ、それが爆発的なヒットに繋がったそうです。それでも本人は本業は作曲家のつもり。ところがファンからのアンケート結果を見て愕然とする事になったとか。
彼女の魅力の第一位は【声が良い事】そして第二位は【歌詞が良い事】、だれも作曲を評価してくれていなかったそうです。曲を認めてもらいたいが為についでに作った歌詞や、しかたなく歌った自らの声を人々は評価し、本人が最も注力していた作曲は誰も認めてくれていない。今までの自分の人生は一体なんだったのか。
この事から原点に戻り最初から歌を勉強し始めたそうです。


【人が必要としてくれている所に自分の存在価値がある。】
ひとりよがりになりがちな自分の価値観を客観的なものに修正し、人々の期待に応える。
これらエンターティナーの方々のみならず、自分自身の指標として最も重要な事でもあると思います。
後半年で還暦を迎える私自身、今後の身の振り方についても考え直す必要があるようです。