ツイード

山歩きを再開した頃、暫く【山渓】を購読していました。
定期購読と言うより、本屋へ行ったついでに気が向いたら買うというものでしたが、結局毎月欠かさず約一年に亘り買っていました。
どんな雑誌でもそうですが、一年を通して購読すれば翌年からは毎月前年度とほぼ同じ内容の繰り返しである事が解かります。
買わなくなっても暫くは立ち読みを続けていましたが、別に目新しい記事もなくそのうち目を通す事すら無くなってしまいました。
内容も昔に比べ随分変わっており、特に中高年を対象としたものが多くなっていました。記事もさることながら、山用品店の広告宣伝が殆どなくなっているのに驚かされます。厚みも減る筈ですね。
雑誌というものは本体の販売金額だけでなく、広告掲載企業からの収入も大きいと聞きます。でなきゃああんな廉価で本体を販売できる筈がありません。
雑誌廃刊のニューズが多い昨今、【山渓】さんもさぞかし台所が苦しい事と思います。
この【山渓】、現役の頃は定期購読をしていました。毎年同じ内容の焼き直しであることは解っていても、断りの連絡を入れない限り毎月本屋さんが届けてくれるのです。謂わば惰性で購読していたと言うべきでしょうか。
しかし内容はよく似ていても巻頭の写真は素晴らしいものでした。当時は白旗史朗さんが専属で写真を担当されていました。毎月その写真に癒されていたのかもしれません。通?は【岳人】を購読していましたがミーハーの私には写真の綺麗な【山渓】が合っていました。そうそう、【山渓】以外に【岩と雪】も購読していたんでした。こちらは一度廃刊になり、今は【Rock and Snow】と英語読みで再刊しているようです。
いつ廃刊になったのかは存じませんが、やはり若者の山離れの影響であることは容易に推測できます。まさか中高年の方々が先鋭的な山に魅せられ【岩雪】を購読していたとは思えないし。
【岩雪】は別として当時の【山渓】も【岳人】も厚みの半分は広告でした。今のようにNet環境なぞ全く無かった頃の事です。山道具の情報(製品、機能、価格、販売状況)などはこれらの広告から得るのが当時の常道でした。ある面これらの情報を得る為、というのが購読の理由のひとつになっていたのかもしれません。
年末になればどの店舗も「冬山セール」と銘うって値引合戦を繰り広げました。それを誌面で見比べ、お買い得品を探し買いに出かけるのです。当時は今と比べ山道具はとても高価でした。そしてその購買層は私達のような至極低所得の若者です。数百円の違いでも私達には切実な問題であり遠路遥々と足を運んだものです。東京、大阪に比べ名古屋は市場が小さい所為か価格も若干高めだった事を覚えています。今のネット販売や輸送インフラの発達には隔世の感があります。こうしてみると地域格差はもの凄く改善されている事を実感します。古き良き時代が無くなったと嘆く人もいますが、その古き良き時代では今の利便性は望むべくもなかったのです。
当時の名古屋の山用品店というと、好日山荘(神戸が本店のサン・コージツ。エーデルワイスマークの横浜のものは名古屋には無かった。)、IBS(これも神戸か大阪が本社の石井スポーツICI石井スポーツも名古屋にはなかった。)、それと地元の今池アルプスの系列店。(これも殆ど姿を消し今では駅前アルプスが残っているだけ。)この他にも小さな個人店舗がいくつかありましたが、どの店もいつもそこそこの客入りだったと思います。年末の休日などは凄い人でごったがえすこともありました。それが今では見る影もないくらい閑散としています。お金にいとめを付けない中高年が今の主要な顧客層になっていても、昔ほどの登山人口が居ない現代ではやはり市場自体が縮小している事は明らかです。おまけに昔より山道具の価格は大幅に下がっています。先日の日記にも記しましたが全体的に1/4〜1/5に下落しています。おのずと利幅も小さくなり経営を圧迫しているのでしょう。これではディスカウントなぞできよう筈がありません。それに輪をかけてNet販売の急増。固定費の大きな店舗を開くよりPCと電話だけで済むNetショップの方が利益は大きいです。それを原資にディスカウント。そうなれば誰もリアル店舗なぞで買わなくなってあたりまえ。残る道は多店舗展開を止め一店舗のみをショーウィンドウとする事ぐらいですか。そこにサービス業務を集約し、実際の取引はNet上になるのでしょう。


昔のその広告に決まり文句で載っていたものがあります。
ニッカーズボン ウール、ツイード
テント 底地、ナイロンタフタ。
何の事か解らずにいましたがどういう訳か今でもそれが頭の中に残っています。それでちょっと調べてみました。
ツイードは英国の伝統的なウールの織物だそうです。特にヘリンボーンという織柄は昔よく目にした模様です。いや、いま冬用に履いているポリエステルの厚手のズボン、これもヘリンボーン柄そのものでした。
山を始めた頃、Sさんが履いていたニッカーは憧れでした。程なくしてGパンを卒業して買ったニッカーもヘリンボーン柄でした。そう当時の山の定番であるニッカーズボンはすべてヘリンボーン柄のツイード地だったのです。
ナイロンタフタは今でも防水地の定番らしいです。
やがて、いかにも山へ行ってきますと宣伝しているようなニッカーが嫌になり、ウールのクライミングパンツに替えましたが、これもヘリンボーンではありませんがやはりツイード地でした。
日本の近代登山の黎明期、その草分けとなったウェストンなどがツイード地の衣類を愛用していた事が影響しているのかもしれません。
やはりウールは良いです。雪まみれになっても、表面の毛羽立った繊維の壁にガードされるのか全体に沁みてくるなんてことにはなりません。同じヘリンボーン柄でも、今履いているポリエステルのものはすぐぐっしょりと湿ってきます。下山後温泉でズボンを脱ぐと凄く重くなっており、それだけ水分を吸っていることがわかります。ウールはそうならず、気温が上がり融けてきても毛羽立った繊維の末端に氷の粒となって残ります。無数の氷の粒がズボンの表面を覆い歩く度にそれが揺れ、夕日などを受けようものならまるでシャンデリアのように光り輝くのです。
冬の本番に出かけるのならポリエステルのズボンでは心許ない。やはり冬はウールが一番です。そう思いながらも本番に行く事もないし、経済的な余裕もないので買うことは出来ないのです。
ああ、可哀想なtanuoさん。