日常生活の冒険

ずっと昔20代の頃、退屈凌ぎに読んだ本にこんな題のものがあったような…。確か大江健三郎の小説だったように思う。
今朝のちょっとしたハプニングにこの題名が思い浮かんだ。


かみさんの早出に合わせ今日も早めにK駅にドロップしてもらった。ホームに上がるとペットボトルが2本転がっていた。時刻表を見るとまだ15分程時間がある。先日のおじさんよろしく片付けてやるか。幸い周りには誰もいない。別に悪い事をする訳ではないのだが、どういう訳か人の目を気にしてしまう、小市民のtanuoさんなのである。
2本とも鞄とは反対の手に持ち階段を下る。と、下にも1本。これも拾う。空瓶回収箱は改札の外だ。両手がふさがり定期券が出せない。ペットボトルを外から取れる所にに置き、定期券を出し外へ出る。
そのままペットボトルを取ろうとすると、定期券を取る事を促す案内とともに定期券が自動改札機に回収されてしまった。一瞬、焦る。どうしようかとパニくってしまった。
幸い今日はまだ早い。多少時間がかかっても会社に遅刻する事はないだろう。いやこれを口実に偶にはサボってやるか?などと不謹慎な考えも浮かぶ。
先ずはやりかけのペットボトルを回収箱に捨てる。そしておもむろにインターホンを探す。こんな時に限ってなかなか見つからないものである。鉄道事務所の電話番号がわかればPHSからかけても良い。どこかに電話番号は表示してないかな〜。
案内書きを目で追っていると目の前にインターホンを発見。なんだ、あるじゃないか。やはりまだパニくっているようだ。落ち着いて、落ち着いて。
インターホンで事の仔細を話す。
「××分の列車で行きますので△△分の到着になります。」
「今どちらですか?」
「T駅です。」
「えっ、そんな所から? N駅からは来て頂けないのですか?」
「ちょっと待って下さい。」暫くして、「やはりこちらT駅からになります。」
「そうですか、解りました。お手数かけますがお待ちしてます。」
△△分までにはまだ大分時間がある。いろいろと訳の解らぬ事に頭を巡らす。
善かれと思った事でとんだ時間を食ってしまったな〜。やりつけない事なぞするもんだからこんな事になったのかな〜。もう二度とこんな事してやるものか。いやいや、それとこれとは別問題だろ。自分が鈍臭いだけじゃないか。老人性のボケが始まっているのかな〜。こんなこと恥ずかしくてかみさんにも言えん。
暫くすると反対側の列車が来た。その後鉄道職員の制服姿の人が降りてきた。そして改札機の蓋を開けだした。まだ△△分にはなっていない。でもこんな事をするのは回収した定期券を取り出す為としか考えられない。近付いて行くと私が当事者と察したらしく、「これで良かったですか。」と定期券を渡してくれた。
「有難うございます。早かったですね。」
「かくかくしかじかでN駅から来ました。」
「お手数お掛けして本当にすみません。」


かくして今朝のハプニングは事無きを得たのである。自分の愚かさとその失態に失笑を禁じ得ないtanuoさんであった。
精神の老化は日常生活の惰性から。常に新鮮な目で回りに興味を持ち続けたいものである。冒険と言うほどではないが、些細な事でも積極的にチャレンジしていくように努めよう。
と同時についうっかりで周りに迷惑をかけないようにしなくっちゃ。


そして今日の夕刻。N駅でかみさんと待ち合わせてディナータイムデート。
私の誕生祝いとの事で夕食をご馳走してくれると言う。但しどこへ行くかは私には決定権は無い。全てかみさんにお任せ。
食事中、うっかりと今朝の事件を話してしまった。
思ったとおり大笑い。そしてしっかりと馬鹿にされてしまった。
「ふん、おまえだって後10年もすれば同じ事をしでかすんだぞ。」声には出さず心の中で叫んでやった。