裏の杉の木

この家に移って間もない頃、Sさんから鉢植えの杉の木を頂いた。
盆栽と言うほど立派なものでもなく、Sさんも気まぐれに鉢に植えたものだと思う。小さな鉢に阻まれて大きくなれずにいた杉を裏庭で露地植えにした。小さな鉢から庭に放たれた杉はみるみるうちに大きく育っていった。


暫く前から裏から何かが擦れるような音が聞こえていた。暑くなり窓を全開にして眠るようになった為、聞こえるようになったのだろう。たぶん大きく育ち過ぎた杉が風に揺れどこかと擦れあっているのだろう。
気にしなければそのまま済んでしまうようなものだが、気にし出すと気になって仕方が無い。殊に就寝前ともなれば下手をすると寝付けなくなってしまう、神経質なtanuoさんなのである。
それで昨日はその杉の始末をする事となった。
気付かない内に大きく伸びた枝が隣の敷地内にはみ出し、隣家の二階のベランダに届きそうなくらいだ。尤も裏の家が境界ギリギリに建てている事もそれを助長しているのだが。
先ずは梯子を横の倉庫に立て掛け、低い所から枝を掃って行く。次は倉庫の屋根に上がり枝を掃う。届く範囲全て掃い終えやっと倉庫の屋根に立てるようになった。
その状態で様子を窺うと、どうやら上の方の枝が二階の軒の雨樋に擦れているようだ。
倉庫の屋根から梯子を一階の屋根に渡し乗り移る。スチール製の倉庫の屋根は滑りやすく、乗った梯子が滑り出し一瞬びびった。へっぴり腰でなんとか乗り移り、今度は二階の屋根へ上がる。気付かない内にこの杉の木、二階の軒よりずっと高くなっていた。滑って草履が脱げそうになるのを騙し騙し軒まで降り、擦れている枝を手繰り寄せ鋸でギーコギーコ。なんとか原因を取り除き、ついでに幹の先端も切り落としておく。これでこれ以上伸びるのは抑えられる。しかしまあ屋根の上ってのは恐ろしい所である。まるで玢岩の岩屑が折り重なったテラスのようで、フリクションは感じるものの、なんとなく信用できないのである。ヒモをぶら下げていないのも不安感に拍車をかける。やっぱりtanuoさんは高所恐怖症だったのだ。
なんとか始末を終え、後は切り落とした枝の始末。枯れた葉っぱや棘のある枝は持つ所を選ばないとヤワな私の手に刺さり血が噴出す。軍手なんて全く用を為さない。そう、tanuoさんはお手てもデリケートなのである。
汗だくになりながら枝を南側の焼却場所へ運ぶ。やってる内に意識が朦朧としてくる。あかん、このままじゃ熱中症になっちまう。
運んだ枝は積み重ねてあるが尋常な量ではない。枝1本が鉢植えだった頃の数倍の大きさである。幹の太さも1cmくらいだったのが今では15cm以上ある。
これだけCO2を固定化してくれていたものを、また大気中に戻す事になるのか。折角のエネルギー、家庭でも簡単にコージェネレーションが出来ると良いのに。
大汗の後はシャワーを浴びる。「ふ〜、さっぱり。」
動く度に汗をかき、汗をかく度にシャワーを浴び、何をやってんだか。省エネとは全く逆の事をやっているtanuoさんです。