動物レストラン

【狐地】じゃなくて【狐地東】だった。
名四国道(現23号線:当時はこう呼ぶのが一般的だった。)、日光川大橋を越えると直線道路が暫く続く。飛島、鍋田干拓地というと伊勢湾台風で大変な被害に遭った所だ。その直線が切れるのが筏川橋。この橋を越えると少し降りとなりスピードが出ていると若干車が宙に浮く。この次の稲荷の信号を越えると道路は緩やかに左にカーブしておりそれが直線に変わる辺り、道路左側にそれが出来た。もう30年ほど経つのかな。
若干虹色に裏光りする白いタイル貼りの大きな建物だ。永い間廃墟のままとなっていたが昨年工事が入り、どうなるのかと見ていたら中古車販売のアップルに変わっていた。躯体、外装はそのままに内装だけ変えたのだろう。
当時も毎週のようにここを走っていた。桑名まで名四を走り桑名ICから四日市ICの間だけ東名阪を使うのが普通だった。(当時はまだ名古屋西ICまで延びていなかった。)
そのころTVなどに動物を出場させその出演料を稼ぐという方法でこの会社は収益を上げていたようだ。
珍しさも手伝い色々な番組で引っ張り凧、そのプロダクションの成功物語までドラマ化されたように思う。その流れに乗りついにこんなデカイものまで手を出してしまったのだろう。
動物レストラン【ズーミック】だったか【エルザ】だったかよく覚えていない。
映画【Born Free】(日本名:野生のエルザ)から命名したものだろう。当時は雌ライオンと言うとエルザという名を連想したものである。
私も話の種にと御在所通いの帰りに一度寄った事がある。店内は割りと清潔に保たれてはいたが、ガラス張りの向こうは動物のテリトリーである。糞も垂れれば小便もする。そして若干臭いも漏れてくる。動物を見る事と食事をする事とはそれを同時に行う必然性も無いし相性も悪い。
物珍しさのおかげか、近くに長島遊園という子供の集客性の高い施設があったおかげか、出来た塙はそこそこ客足もあったようである。しかし一度行けばもう二度と行こうという人はいない。いつしか寂びれ、気が付けば廃墟となっていた。


御在所通い再開後も、この前を通る度当時の事を思い出していたのである。そしてさぞかし大きな負債を抱えたのであろうと、気の毒に思っていたのである。30年経っても買い手もつかず廃墟のままであった事が尚更そう思わせたのである。工事が入った時も、債権者や転売のいきさつなど色々想像を逞しくしながら横目で見ていたのである。


一昨日渋滞の中、かみさんからのTELでこの動物レストランの名前が出た。かみさんもここの事は覚えていた。
何とは無しにNetで動物レストランを検索してみた。まさかヒットするとは思ってはいなかったが、有るは有るはいっぱい出てくる。こんなにも人の記憶や思い出としてNetに出てくるとは想像だにしなかった。
青春の一時期、ほんの一期一会でしかなかったが、こんなにも多くの人々と思い出を共有していたとは。
そしてその中にCOXプロダクションがあった。そうあのプロダクションだ。倒産せずにいたのか。今では動物だけでなくごく普通のビデオ製作会社となっていた。マツダ自動車のプロモーションビデオなども手掛けている。そして本社オフィスの地図が出ていた。中村区黄金中学のすぐ近くである。黄金中学は私の母校である。
(米野小学校、黄金中学と如何にも稲作と関連深く、田舎臭くてすんまへん。)
あまりの偶然に暫し呆然。いずれにしても紆余曲折はあったであろうがこうやって生き永らえている事、そしてそれが意外なほど身近であった事、良かったと思うと同時に驚きを禁じ得ない。


世間は本当に狭い。そして異なもの味なものである。