悪魔の囁き

知性、教養、人徳、判断力…、全てにおいて人並み以上に優れた人でもうっかり道を外す事がある。
外すか外さないかは紙一重の違いで、それはもう神の仕業としか言いようがない。
私自身も、幸い未だかって大きな事故に遭ってはいないが、ついうっかりと馬鹿な事をよくやらかしている。
運悪く事故になっていたら周りからは非難轟々だったことだろう。
そう思うと一方的に非難することも憚られ、なんとも言い難い。ただただその傷ましさに、今までの自分の愚かな所業も含めそれを戒めるのみである。


たとえゲレンデといえどもスキー場は自然の一部である。なかには栂池なぞ比べものにならないくらいのリスクをかかえているスキー場も数多とある。そんなところと比べ「栂池辺りだから。」との油断があったのかもしれない。
しかし栂池は過去にも事故が起こっているのである。今回と同じ馬の背−白樺ゲレンデの尾根のどちらかの斜面だったように思う。南斜面なら同じ林間コースだし、北斜面ならその尾根とチャンピオンゲレンデとの間の沢である。もう20年ほど前だろうか…。
やはり栂池といえども冬山のリスクを常に隠し持っているのである。


この林間コースへ何処から入ったのかはニューズでは出てこない。いくつかある入り口で、思い当たるのは栂の森から降りてきてハンの木ペアリフトの乗り場横からだろうと思う。急斜面の馬の背や白樺ゲレンデから入ったとはとても思えない。ゴンドラで上がってきたのだとすればハンの木ゲレンデの最上部を滑って来た筈である。それなら何故ここで狭い林間コースなぞへ入ったのか。そのまま、広く傾斜も緩やかなハンの木ゲレンデを降りれば良かったではないか。ここを降ればレストランエデンの手前で緩傾斜のため漕がなきゃならなくなるが、傾斜に負けて転倒する事もなく安全に降りてこられるのである。
まして入り口はロープで閉鎖されていたのである。なにを好き好んで? 初心者の安全の為なぞという理由はこの場合あてはまらない。やはり栂池という安心感と、若い娘達と一緒という心の高揚感から「チョット冒険を!」と思ったのではないか。まさに【悪魔の囁き】に誘惑されたとしか言いようが無い。


自然、殊に雪山は美しいものである。しかしその裏に常に厳しさと恐ろしさを隠し持っているのも事実である。
ついつい街の延長と錯覚しがちであるが、人のテリトリーから一歩踏み出せばそこには大きなリスクが隠れていることを常に心に留め置きたいものである。


それともうひとつ。
こういった事故が起こると必ず出てくるのがスキー場の管理体制への批判である。無責任な部外者に限ってこう言った発言をするものである。これ以上どうしろというのだろうか。3時間前からは雪崩の危険性があるということでコース閉鎖のアナウンス、入り口はロープで閉鎖。取るべき措置はしっかり講じているのである。それとも各入り口に人を張り付けろとでも言うのだろうか。もしそこまでやっても入る者は人の目を盗んでも入る。いたずらに人手を増やしても人件費のアップを招くだけである。結果ゲレンデ料金(リフト代)のアップになるだけである。
暴言ではあるが死にたい奴は放っておくしかないのである。今回の被害者収容にしても二次災害の危険を犯しながらのパトロールの努力で事無きを得ているのである。本来なら放って置かれても文句は言えないのである。そんな危険を冒しても人命救助に尽力するのはパトロール達の使命感からである。そしてスキーそのものと、スキー好きな人達が大好きという、パトロール達の人柄がそれをさせているのである。
安易な管理体制批判より、スキー客自身のモラルアップに向けての啓蒙を優先させるべきだと思う。


なんて綺麗事を言っちゃいましたが、私自身今までに何度もリフトのおじさんに叱られています。オフピステ、とくにリフト下なんて言い表せないくらい楽しいところです。いや、私はこんなところ滑る気は無いのですが子供達が大好きで勝手に行っちゃうんです。それを止まらせようと追いかけて行ったら、結果的に滑ってしまう。という訳です。おかげで「言う事聞いて貰えないなら帰って貰いますからね。」なんて強い口調で叱られることもしばしば。まあ今では子供も遊んでくれないので叱られる事もありませんが。