友遠方より来たる。

また喜ばしからずや。
取引先の人なので友という表現が適切かどうかは何とも言えないが、立派な人であり尊敬に値する人である。
K国の人であり、今や世界に名立たるS電機に務めていたくらいだからエリート中のエリートなのだろう。
もう10年以上経つだろうか、彼が独立して起業したのは…。そして私が彼と知り合ったのはその頃の事である。
当時台湾から大量に電子部品を仕入れていた。低価格のローテク部品が主だったが、国内調達と比べ納期はかかるし融通も効かない、おまけに意志の伝達は英語しか使えない。それでもコストメリットを考えると国内調達に戻すことなど考えられなかった。
そんな時に現れたのが彼だった。若干台湾よりコストは高めだったが小ロットにも対応してくれる。それよりなにより最も有難かったのは日本語で意思疎通が図れる事だった。そんな訳で最初は中〜小ロットのものから取引を始めたが、短納期であるのときめ細かな対応とでいつしか台湾からの仕入れは無くなっていた。そして今では殆どの海外調達が彼の会社からである。こちらも1Stop Shoppingとなりなにかと好都合である。
一般的に台湾は日本など見ていない。目の先にあるのは常に米国である。しかしK国は違う。当然米国も見ているが日本も常に視野に入れている。「日本語が話せないのはビジネスマンとして失格である。」とさえ言う人もいるくらいだ。


一時期彼の会社からの仕入れ品で大量の不具合が発生した事がある。その時彼は取引を打ち切られる事を覚悟していたらしい。その時の私の対応に恩を感じているらしく、ことある毎に感謝の意を表してくれる。
トラブルが有ったからといって直ぐ取引停止などしていたらきりが無い。新たな所との取引は冒険であるがある程度のリスクを負わなければ相応のメリットも得られない。会社と会社の付き合いはお互いが影響しあい、育ちあうものである。相手が育つのを待てないのなら自身も育つ事はできない。
トラブル発生時の対応の仕方で付き合って行くべきか否かが解る。誠心誠意対応する意志があるかどうかで決めれば良いだけである。
そして彼の場合は、こちらが驚くほどの誠意で対応してくれたのである。被害の規模からすると倒産するかも知れないほどであったが、その負債よりも人としての尊厳を彼は選んだのである。他国との取引であり逃げようと思えばそれも可能であった筈だが。
そんなひととなりを知ってしまうと「こんな人の経営する会社ならずっと付き合っていくべきだ。」と思って当然である。おかげで彼の会社の品質も上がり、こちらも継続してコストメリットやその他の利便性を享受できている。
と言いながらも品質上の問題点は無くなる事は無い。物を作っている限り永遠に続く事である。今回もトラブル対応の打ち合わせで来たのだった。


久しぶりに会し事務的な打ち合わせの後、思いがけない話に華が咲いてしまった。なんと彼も若い頃岩登りをやっていたそうだ。今はもう止めてしまったがHikingは続けているそうである。
ちょうど明日は土曜日で休み。「よかったら鈴鹿でも案内しましょうか。」と誘ってみたが都合がつかないようだった。道具くらいなら家にあるものでなんとかなるのだが…。それに明日はあまり天気も良くなさそうだし。
逆にK国の山に誘われてしまった。是非来て欲しいと言う。そういえば金甫空港が近付くと超低空飛行だった事を想い出す。ソウルの北側にある岩山すれすれに飛んでいるのである。窓から見下ろすと登山道やそこにいる人の顔が解るほどの高さである。その岩山がおよそ日本では考えられないくらいブッシュが無くすっきりしているのである。標高こそ少ないがゲレンデにピッタリなのである。町からの交通の利便性、せいぜい2-3ピッチで稜線に抜けてしまうくらいの山容。ブッシュのない岩だけのルート。ソウル訪問の度いつも気になっていた岩山が急に近しく感じられた。
よし、いつかソラクサンでも行ってみるか。