性格

今夜またS司が帰ってくるそうだ。夕方との事だったが、どうせあいつの事だ、夜遅くになってからに違いない。明日こちらで用を済ませそのまま帰ってしまうらしい。
勉強が大好き?で、順調にいっても後6年学校に通うそうだ。
「机の前で座っているのが好きだから。」などと公言して憚らない。その後はどこかの公的機関に勤めるらしい。
「一生薄給生活なので、楽させて上げられなくてごめんね。」とかみさんに言ったそうだ。
まだ学生のうちから自分の好きな事を見つけ、たとえ薄給でもそれを受容れられるなんて素晴らしいじゃないか。当然かみさんは「いいよ。」と答えたそうな。
幼い頃から、人より知恵が遅れ気味で、どうなることかと危惧していただけに、「いつからこんなしっかり者になったのだろう。」と、つい感慨に耽ってしまう。


お兄ちゃんのT哉は就職先がまだ決まらず少々焦り気味。
「無理して就職などしなくても良いじゃないか。2-3年アメリカでも行って来たら?」と言っても全くその気は無いらしい。そんな事言われたら私なら喜び勇んで出かけるが。
我々の頃と違い、なにをさておき食い口を見つけなきゃならないって時代ではない。仕送りまではしてやれないが、若い内にしか出来ない事にもっと貪欲になっても良いと思うが…。
【惣領の甚六】なんて言葉がある。家の長男T哉は確かにお人好しではあるが、何かにつけ慎重である。慎重過ぎて石橋をたたいても結局渡らない。冒険心が無いのか臆病なのか。それとも親に遠慮しているのか。


T哉の【王子さま時代】は短かった。乳離れする前にS司の妊娠がわかり、母乳からミルクに切替えられてしまい、それまで独占していたオッパイと切り離されてしまった。
S司の出産時には2週間ほどT哉をBさん宅に預かって頂いたが、たとえ一歳児でもただならぬ気配を感じていたらしく、駄々をこねるでもなく素直にその処遇を受容れてくれた。
S司が生まれてからは、甘えたい盛りにも拘わらず、どこかで自分を抑えていたように思う。
ものわかりが良過ぎるというのは損なものである。なにもわからないS司は駄々のこね通し。水気すら出なくなったオッパイを3歳になるまでせがみ続けていた。そんな弟を傍で見ながら羨ましく思っていたに違いない。にも拘わらず献身的に弟の面倒を見ていたT哉は親と同じ目でS司を見ていたのかもしれない。
一方S司はと言うと、両親からもお兄ちゃんからも甘やかされて育ち、我慢とはおよそ縁の無い幼少期を送ってきた。
そして現在、T哉は冒険する事を避け手堅く着実に生きようとしている。S司は慎重とかリスク回避なんて事は一切考えないのびやかな生き方をしている。
T哉は家の近くからあまり離れず、かといって親の負担にならないようにと、自分の稼ぎで何でも賄おうとしている。 S司は高校から家を出たがり寮生活。大学も「ここしか行ける所が無い。」などと言って東京暮らしをしている。おまけに留年までしている。
知らず知らずのうちにT哉には負担をかけていたのかと思うと申し訳なさでいっぱいである。
子供って、幼い内は思いっきり甘えさせて育てるのが良い。幼い時に味わった幸せ感が、積極性やのびやかさを育くむのかもしれない。
オッパイはとりあげてはならない。自分から飽きて手放すまで吸わせてやるべきである。