金木犀の頃

朝、庭に出ると懐かしい香り。反射的に胸がキュンとする。哀しいような、息苦しいような。
「ああ、今年も金木犀の花の時期がやってきたんだ。」
毎年10月上旬から中旬にかけて、この甘ったるい香りが街中に漂う。と同時に忘れかけていた記憶が甦る。自らの狡さが招いた悔恨の念に苛まれる時期である。秋というもの悲しい季節とあいまって、私にとってはなんとも絶え難い時期なのである。
あれから30年の月日が過ぎ何もかも忘却の彼方へ葬り去った筈なのに、この香りが記憶を鮮明に呼び覚ます。
忘れたい筈なのに心の片隅では「忘れてはならない。」と思っているかのようでもある。
庭に金木犀を植えたのも、そんな心の葛藤がさせたかのかもしれない。
一歩間違えばどうなっていたか解らない脆弱な私を支え続けてくれた人達がいる。それぞれが家庭を持ち、いつしか疎遠になって行くのはあたりまえの事。それゆえか一層【一期一会】なんて言葉が妙に脳裏にこびりついて離れない。